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日本人は知らない…韓国がいま「働き方改革」でトラブル続出中のワケ

「夕方のある暮らし」のせいで収入激減
金 明中 プロフィール

「働き方改革」で生活が苦しいのは正社員より非正規

非正規職の減少額が正規職より多い理由としては、非正規職の残業時間が正規職より長いことを挙げている。

収入が減少した労働者が収入を増やすために、勤務後に副業などをすると、韓国政府が目指している「夕方のある暮らし」は難しくなる。

また、新規採用に対する企業の負担も大きく増加することになる。韓国経済研究院は「週52時間勤務」の実施により、26.6万人の労働力不足が発生し、その結果、新規採用などの企業負担は年12兆ウォンまで増加すると推計した。

〔photo〕gettyimages

韓国政府は労働者の収入減少や企業の負担増加を緩和するために、労働者に対しては、1年間(製造業優先支援対象企業は2年間)、1ヶ月に10万~40万ウォンの支援金を、新規採用をした企業(従業員数300人以上の企業)に対しては新規採用一人当たり1ヶ月に60万ウォンの助成金を支払う方針だ。 

また、最低賃金の引き上げによる零細事業者の負担を減らすために、30人未満の労働者を雇用している事業主を対象に雇用安定資金を支援している。支援金額は労働者の労働時間と労働日数により、1ヶ月3万ウォン~13万ウォンに設定されている。韓国は来年度の最低賃金の引き上げに対する企業負担を減らすために3兆ウォン規模の雇用安定資金を支援する方針だ。本来なら企業が負担すべきお金を政策の実現のために国民の税金で賄うことは良策ではないだろう。

 

そして、失業者と低賃金者が増え始めた…

最低賃金の引き上げに関しては企業の反発も大きい。小商工人生存権運動連帯は8月29日にソウルの光化門(クァンファムン)広場で、最低賃金の引き上げ政策に反対する集会を開き、文在寅政権が推進する急激な最低賃金の引き上げ政策を強く批判した。食堂、コンビニ、美容室、ネットカフェなどを経営する全国で集まった自営業者は、最低賃金引き上げの速度調節と最低賃金を規模や業種別に差別適用することを要求した。

最低賃金が雇用に与える影響については専門家の意見も分かれている。韓国労働研究院(KLI)は、最低賃金の引き上げが2018年1月から3月までの雇用量と労働時間に与えた影響を推計し、雇用量に与える効果は統計的に有意ではないと発表した。また、8月2日に発表した報告書「2018年上半期の労働市場評価と下半期の雇用展望」では、「最低賃金は限界に直面した一部の部門で部分的に雇用に否定的な効果をもたらした可能性はあるものの、上半期の雇用鈍化の主な要因ではないと判断される」と主張した。

一方、韓国開発研究院(KDI)は6月4日に最低賃金と関連した報告書を発表し、「最低賃金引き上げの速度調節論」を提起した。この報告書では、最低賃金を毎年15%ずつ引き上げると、最悪の場合、2019年には9.6万人、2020年には14.4万人まで雇用が減少する恐れがあるという推計結果を出した。
 
では、実際の雇用状況はどうだろうか。参考までに、最低賃金が16.4%に引き上げられた2018年1月からの対前年同月比就業者数の増加幅を見ると、2018年1月には就業者数が対前年同月に比べて33.5万人まで増加して、2017年1月の増加数23.2万人を上回ったものの、2018年2月~6月までの対前年同月比就業者数は2017年2月~6月を大きく下回っている

また、韓国統計庁が8月17日に発表した「2018年7月雇用動向」 によると、7月の失業率は3.7%で前年同月に比べて0.3ポイントも悪化した。7月の就業者数は、前年同月に比べて5000人が増加したものの、増加幅は、韓国経済がリーマン・ショックの影響下にあった2010年1月(10000万人が減少)以来、8年6カ月ぶりの低い水準だ。さらに、7月の就業率は61.3%で、前年同月の61.6%より0.3ポイント悪化し、失業者数は103.9万人で、前年同月に比べて8.1万人も増加した。

【対前年同月比就業者数の増減】

(資料)韓国統計庁「経済活動人口」より筆者作成

最低賃金の引き上げが、未満率(最低賃金額を下回る賃金をもらっている労働者の割合)の上昇に繋がっていることも問題だ。韓国における最低賃金の未満率は2015年の11.4%から2017年には13.3%まで上昇した。同期間における日本の未満率が1.9%から1.7%に低下したこととは対照的であり、未満率の大きさも日本を大きく上回っている。

韓国政府が家計所得を高めて経済成長を成長させる「所得主導成長」を実現させるために、果敢な政策を実施していることは分かるものの、現在の韓国の経済社会状況をみると、政策実行の速度を調整する必要性があることを感じる。韓国政府は韓国における労働市場の問題点をより幅広く洗い出しながら、働き方改革を進める必要があるだろう。