スクープ!異例入国の北朝鮮幹部が極秘接触した「元政治家の証言」

日体大理事長が訪朝し続ける理由
常井 健一 プロフィール

日朝首脳会談、キーマンはやはり「あの人」?

――いまや国内きっての「北朝鮮通」となった松浪さんから見て、日朝首脳会談は近いうちに開かれる可能性があるのでしょうか。

私はありうると思っています。2度目の米朝首脳会談が行われたら、いよいよ日朝も動くかもしれません。安倍さんはトランプ大統領とタッグを組んでいるから、そういう意味では小泉純一郎さんの外交手法とはちょっと違いますよね。小泉さんは訪朝でも何でも、独自にでバーンとやっちゃうタイプだったけど、安倍さんが日朝外交について思い切った発言をしないのは、アメリカの存在を気にしているからですよ。

――「拉致、核・ミサイル問題の解決の先に、不幸な過去を清算し、国交正常化を目指す」というのが安倍政権のスタンスですが、現状のままでは日本は「蚊帳の外」に置かれ、日朝関係の打開が難しいということでしょうか。

いや、安倍さんは外交手腕を持つ人ですので、大いに期待しています。ある日突然……という展開を期待していますよ。

今年に入って、アメリカが北朝鮮とうまくやろうという路線に舵を切ったから、日本にとっても今こそうまくやればチャンスがあると見ています。安倍さんは総裁任期の残り3年間、日ロ間の領土問題解決に加えて、日朝間の拉致問題の解決は必ずやると思いますよ。

 

――しかし、北方領土問題における鈴木宗男さんのように、拉致問題にはまだしも、日朝外交に熱心に取り組む保守政治家が見当たりません。

選挙の票にならないからですよ。国会議員が動いたところで、結局は「二元外交」とも言われるし、アメリカからの監視にも厳しく晒されるでしょう。日朝議連の衛藤征士郎会長だって、あれだけ熱心なのに訪朝しない。それが象徴しています。

そういう意味では、金丸信先生のご子息である信吾さんが、そういう任を帯びているのかもしれません。

――私は松浪さんと同じ時期に平壌を訪ね、金丸信吾さんの訪朝団に同行して取材しましたが、たしかに信吾さんは「父の名代」として金日成・正日親子と何度も会談したことがあるだけに、現地でも夕食の場に高官が登場しました。ただし、金丸さんは議員ではありません。

バッジがないからこそ、自由に行動できるんじゃないですか。バッジがあると、いちいち国会に渡航手続きをしなければならない。しかも、許可は下りない。それを無視して朝鮮に行くアントニオ猪木参院議員。訪朝しても、政府に無視される。猪木さんは立派な方だと思っています。しかし、政府は猪木さんの話には聞く耳を持たないでしょう。

――国会でも超党派の日朝議連が活動を再開していますが、メンバーの間では議員訪朝団の可能性についても、雑談レベルですが話題に上がっているようです。

今の日朝議連の顔ぶれを見ても、「誰かが動いて国が動く」という方はいませんね。あと、日本のほうから動いても、何もできないで帰国するような結果で終わります。国会議員の訪朝団を組むには、総理と腹を割って、政策を決めて、落としどころを見いだせる人がいないと成立しません。事実上、安倍訪朝の土台を作ることにもなるのですから。

北朝鮮のマスゲーム(筆者撮影)

――どういう方だったら、それができそうですか。

やっぱり安倍総理と腹を割って決めることができるのは、二階幹事長しかいません。実際、私と二階さんとは国会議員時代、新進党、自由党、保守党、保守新党、自民党――と一貫して行動をともにしてきましたから、外務省が私のやることに止めに入らないのも、「松浪は二階の許可をもらって動いているに違いない」と見ているからでしょう。この病室にあるお見舞いの花は、みんな二階さんからの贈り物です。

その二階幹事長が仮に訪朝しようとしても、向こうから招待状が来ないと行きません。そうでないと、まず安倍総理が訪朝を認めないからです。

「朝鮮に行きたいけど、どういう話をしてくればいいでしょうか」と相談を持ちかけても、安倍総理は大した返事をしません。招待状を受け取った上で、「総理、落としどころはどうしましょうか」と腹を割って話す段階を踏まないと、二階幹事長であっても訪朝は実現しません。

――金丸訪朝団の頃(1990年)は自民党幹事長が率先して動き、北朝鮮に拘束されていた漁船の日本人船長らの解放を実現しました。その際には海部俊樹総裁(当時の首相)の親書を持って訪朝しました。

金丸訪朝団の頃は、総理より幹事長の金丸さんのほうが、立場が上だったから、時代状況がまったく違いますよ。それに親書ではダメですね。挨拶状に過ぎません。

安倍総理は朝鮮に対し、思い切りコブシを上げている状態ですから、それをうまいように軟着陸させるような形とか、落としどころを考えて、鳩首協議を開いて、その上で乗り込む。そういうことが第一歩でしょう。対話が始まれば、安倍さんが朝鮮に行く土台はできます。早晩、日朝首脳会談が実現するということになるでしょう。

――最近では、北村滋内閣情報官が北朝鮮高官と極秘接触するなど、日朝外交でも官邸主導が浮き彫りになっています。かつて小泉訪朝を仕掛けた田中均・外務省アジア大洋州局長(当時)とミスターXのような「外務省のパイプ」というものは、いまや存在しないのでしょうか。

ありますよ。少なくとも北京にある大使館どうしでは、水面下の交流があります。それに朝鮮もあっちこっちに大使館を持っていますから、お互いにしようと思えばいくらでも接触できます。

――今回、松浪さんはすい臓がんの手術を目前に控えての訪朝だったんですよね。平壌到着時にお見かけした時は「ちょんまげ」姿でしたが、現在は髪を失くされた状態です。

今年は、三つのがんをやりました。前立腺がん、悪性リンパ腫、すい臓がん。前立腺がんはホルモン注射で抑えればいいけど、リンパ腫は「R-CHOP療法」(※化学療法の一種)を長期間受けて、何回もCTを撮るわけですよ。その時にすい臓の様子がおかしいというんで、全身麻酔で胃袋を破って、その奥にあるすい臓の一部を採取したらがんだった。まあ、「ステージ1」だったけど。

リンパ腫や前立腺がんならいいが、すい臓は命取りになる。症状が出てからでは遅いから、切ることになった。その手術の日を決めて、訪朝した。

訪朝する前の週までにはリンパ腫のR-CHOP療法を終わらせて、退院して、日体大の理事長として、関係機関に事前説明に回らなければならなかった。その時は、髪は抜けていなかったんだ。ところが、平壌に着いて、ホテルの風呂場でごそっと髪が落ちた。以来、ちょんまげが結えなくなったよ。

――病気が治ったらまた日体大のサッカーチームを率いて訪朝するんですね。

もう毎年やろうと思っています。継続は力ですから、思い付きでやっていたら、線香花火になっちゃう。今年は男子も女子も朝鮮チームに負けてしまいましたから、東京オリンピックまでに雪辱を果たしたいですね。

いずれにしても売名行為でやるとか、政治的な思惑はありません。ライフワークです。しかし、さすがに去年、一昨年のように核実験をやられると、私も外務省と喧嘩する勇気が失せますよ。普通の状況であれば、喜んで行きたいと思います。

その前に年明けには、二度目のR-CHOP療法が待っていますよ。

筆者撮影