スクープ!異例入国の北朝鮮幹部が極秘接触した「元政治家の証言」

日体大理事長が訪朝し続ける理由

北朝鮮の体育大臣と面会した元国会議員

東京都心にある有名ラグジュアリーホテル。入り口近くにある宴会場の電子案内板に、一際異彩を放つ文字列を見つけた。

〈金 様 御 席〉

11月30日、13時10分。人けのない宴会場前の廊下で待ち構えていると、1台のエレベータから12人もの人が一斉に降りてきた。

男性たちは全員、黒のスーツ。女性たちもみな黒いジャケットで揃えており、あどけない出で立ちが就職活動中の女子学生のように見えた。胸元には、金日成・正日親子の肖像画が入ったピンバッジ。彼らの話す朝鮮語に耳を傾けていると、その中に「一流のアスリート」がいるのだとなんとなくわかった。

集団には、一人だけ恰幅の良い長身の男性がいた。

電光掲示板にあった「金」こと、金日国(キム・イルグク)。北朝鮮の体育大臣である。

 

パンチパーマ風の独特な髪形をした北の閣僚は、そのホテルの高級中華料理店で在日本朝鮮人体育連合会の幹部らとの昼食会をセットしていた。だが、「金」の名で予約した個室に入る直前、引き連れたアスリートたちと一旦離れ、かばん持ちの男性とともに宴会場の隣にある小部屋に消えた。

金は、世界中のスポーツ関係者が一堂に集う各国オリンピック委員会連合(ANOC)の総会に出席するため、11月27~30日の4日間を東京で過ごした。「スポーツ観戦好き」としても知られる北朝鮮の金正恩委員長に抜擢された「重要閣僚」ということもあって、日本のメディアも金の来日に注目したが、その一挙手一投足までわざわざ追いかけ、報道しようとする記者はいない。

小部屋に入った約20分後、金は一人の元国会議員と一緒に外に出てきた。松浪健四郎(72)である。

11月30日、都内ホテルでの極秘会談を終えた松浪健四郎氏(右)と金日国体育大臣

「ちょんまげ議員」として知られ、自民党の二階俊博幹事長に側近として仕えた松浪は、2010年に政界を引退した後、母校・日本体育大学の理事長をしている。

ところで、なぜ北の閣僚は松浪と密会していたのか――。

松浪は議員時代、アマチュアレスリングで培った海外の人脈を生かし、「スポーツ外交」を得意とした。近年は、日体大所属のトップアスリートたちを率いて訪朝を重ね、向こうのエリート選手たちと親善交流を行ってきた。4度目の平壌入りとなった今年10月下旬には、金と30分ほど会談し、そこで「ある提案」をしていた。

金は来日中、現職の国会議員とも密かに接触したものの、民間人である松浪との会談を帰国直前に周到に準備していた。ところが、実際に約1か月ぶりの再会を果たした時の2人の心中は、穏やかではなかったようだ。

もともとその時間には、金が日体大を視察する予定が極秘裏に組まれていた。だが、その情報をつかんだ日本政府は、国交のない国の閣僚の「単独行動」は思わしくないと見たのか、外務省と文部科学省は当日朝になって日体大に対し、文書で中止を要請。理事長の松浪も移動中の車内で連絡を受け、土壇場で中止を決めた。

松浪はなぜ北朝鮮の重要閣僚を日体大に招待しようとしたのか。なぜ北朝鮮に通い続けるのか。そして、「ある提案」とは――。

私は、すい臓がんと闘っている最中の松浪を訪ね、ベッドサイドでその思いと展望をざっくばらんに訊いた。(以上、敬称略)

東京五輪誘致で、実は北朝鮮が…

――日本政府は制裁の関係から北朝鮮籍を持つ人の入国を原則禁止していますが、今回、金日国・体育大臣の入国は異例の形で認められました。

別に異例ではないですよ。日本と国交がなくても、スポーツ交流は認められていますから、政府が入国を許可するのは当然です。過去にも、朝鮮の選手団はもちろん、国際オリンピック委員会(IOC)委員の張雄氏(元体育副大臣)にも入国を認めていますし、むしろ今回、日本が拒否したら、ICOから厳重注意を受けたのではないんでしょうかね。

今の体育大臣である金日国氏は労働党での地位も前任者より高いですし、国内オリンピック委員会(NOC)の委員長を兼ねていますからね。おそらく、張雄氏の息子さんが次期のICO委員になるようです。今回は、その方も一緒でしたので、大変意義深い来日だったと見ています。

――松浪さんは今年10月に訪朝した際、平壌市内で金日国・体育相と会談したそうですね。

はい。わが日体大と朝鮮体育大学との間で親善試合を10月24日に行いました。その際に初めてお会いして、通り一辺倒の挨拶をしてから、一緒にサッカー観戦をしました。会場の金日成スタジアムには3万人の観衆が集まり、中には日体大が提携している朝鮮大学校の学生たちもわざわざ日本から来て応援してくれました。

――金大臣とは、どんな方でしょうか。

第一印象は、若い。50代でしょう。金正恩体制になって、側近たちの若返りが進んでいると感じます。彼はその象徴でしょう。

スポーツ観戦もお好きなようでしたよ。試合中、両チームの選手がぶつかり合って、朝鮮の選手がピッチで倒れ込んでなかなか起き上がらない場面があったのですが、金大臣がエキサイトして、早く立ち上がるように自分の席から声を上げていました。「なにやっているんだ!」というような感じで。

――金大臣は今回の来日中、政府高官や自民党幹部と水面下で接触するということはあったのでしょうか。

ないです。なぜなら、国交がないから。「二元外交」になるという懸念があるから、日本の政治家から接触することはありません。これは、櫻田義孝オリンピック大臣にも私から確認済みです。

――北朝鮮は2034年のオリンピック招致に南北朝鮮で名乗りを上げようとしていますが、今回の来日はそうした招致活動の一貫でもあるのでしょうか。

そういう目的もあったでしょうね。

――東京オリンピックの誘致では、北朝鮮も日本に積極的に協力したと言われています。

その通りです。張雄IOC委員は、アフリカの委員を巻き込み、3票をまとめてくれました。「東京」が獲得した60票のうちの4票だから大きかった。中国と韓国が「イスタンブール」に入れたにもかかわらず、ですよ。無記名投票ですし、中国、韓国に気兼ねしてIOCからは公表されることはありませんが、ね。

私からは、2012年と2013年に向こうに行った時に、当時のナンバー2だった張成沢・国防副委員長(国家体育指導委員長)に2度も直訴しました。前任の体育大臣も同席する中で東京オリンピックへの協力を要請した。その直後に張成沢氏は粛清されたと言われていますが、張雄・IOC委員はしっかり「東京」を支援してくれた。韓国や中国からは、えらいプレッシャーがあったようですよ。東京ではなくてイスタンブールに入れるように、と。

――北朝鮮はどういう狙いがあって東京開催に協力したのでしょうか。

日本との関係改善を狙っているからですよ。