「メンドンとボゼ」世界が認めた謎多き「来訪神」の正体はなにか

ある生き物が関係している、という仮説
青山 潤三 プロフィール

生物と精霊のかかわり

「メンドン」と「ボゼ」について、少し説明しておきましょう。これらの「来訪神」は、地域の若い男性数名(多くが3名、メンドンの場合は子供もメンドンに扮する)がひと組となり、大きな異形の仮面を被り、体にはミノ(メンドン)やびろうの葉っぱ(ボゼ)を身にまとって現れます。そして、手にした枝や棒で人々を叩いたり触ったりします。ボゼの持つ棒は、「ボゼマラ」と呼ばれ男根を模しているとされています。

「ボゼマラ」を持つボゼ(十島村教育委員会提供)

関西大学名誉教授の浜本隆志氏は、ナマハゲをはじめ北は東北、南は南西諸島まで日本各地でみられる来訪神の風習について、こう述べています。

〈ナマハゲはもともと日本国中で祝われていたものと推測される。というのも各地に類似祭が多く残っているからである。岩手のスネカ、ナモミ、新潟、能登半島のアマメハギ、鹿児島、甑島のトシドン、悪石島のボゼ、八重山諸島のアカマタ、クロマタが有名である。(中略)かつての古層の習俗は辺境の地に痕跡を残しており、これらの習俗から、先人の異界観や来訪神信仰を知るための手がかりを得ることができる。

 

一般に来訪神を迎える行事は、大部分の地域では大晦日におこなわれる。ところが九州の種子島を境に、それ以南では、神事は夏に実施される。つまり本来、これらは季節の変わり目に先祖霊があらわれるという行事であったことがわかる〉『異界が口を開けるとき 来訪神のコスモロジー』関西大学出版部)

いわゆる「鬼」のイメージに近い「ナマハゲ」や甑島の「トシドン」に比べると、「メンドン」や「ボゼ」の外見は、まさしく異形と言えます。その由来は、現在では「よくわからない」とされているようです。また、通説としては「メンドン」の「メン」はそのまま「お面」を表す、と考えられています。

しかし、現地で「ボゼ」や「メンドン」の姿を目にした人が少なからず抱く感想があります。彼らのイメージは、なんとなく「セミに似ている」…。しかも、この地域に住むセミの一種「クロイワツクツク」の現地名は、「メツメン」というのです。

ボゼ(十島村教育委員会提供)

セミの声と来訪神

クロイワツクツクは、硫黄島や悪石島を含む一帯(「北琉球」と「中琉球」)で最もポピュラーな野生生物の一つです。実はこのセミが、「メンドン」や「ボゼ」と何らかの関係があるのではないか、と筆者は推測しています。

クロイワツクツクの鳴き声はきわめて独特で、真夏の南の島々を包む独特の雰囲気を醸し出しているようにも感じます。

彼らは木の幹の地表近くに止まっていることが多く、またひと鳴きのスパンが1時間以上に及ぶことなど、非常に長いことも特徴です。お盆の頃、低くくぐもった異様な声で一日中鳴き続けるクロイワツクツクの声は、まるで地面から沸き立つ地霊の呻き声のようにも聞こえます。

クロイワツクツクは、夏場の硫黄島や悪石島では、人々にとってもっともポピュラーなセミであり、またもっとも身近な動物です。

かつて人々は身近な動物を、自らの部族や共同体の象徴と考えていました。文化人類学の知見では、例えばネイティブ・アメリカンはクマやオオカミなどの様々な生物を依り代として、自然界との関係構築、さらに言えば一体化をはかっていたと考えられています。

クロイワツクツクのいない甑島の「トシドン」や宮古島の「パーントゥ」は、東北のナマハゲにどちらかというと印象が近いかもしれません。井戸の底からやってきて、ヘドロを人々に塗りたくる「パーントゥ」は、まさに異界からの使者というイメージです。

一方、硫黄島や悪石島では、人々にとって身近な存在であるクロイワツクツクが、真夏にお盆に出現する精霊や祖霊の姿として反映されているとしても、決して不思議ではないように思われるのです。

今回無形文化遺産に登録された、それぞれの来訪神にそれぞれの魅力があります。でも、中でも「メンドン」と「ボゼ」の突飛さ、ユーモラスさは突き抜けていると思いませんか? あくまで仮説ではありますが、その背景には、クロイワツクツクの存在がかかわっているのかもしれません。