フルトヴェングラー。1931年ごろ〔PHOTO〕gettyimages
# 音楽

ヒトラーが録音し、スターリンが略奪した「幻のテープ」が出てきた!

世界の音楽ファンへ贈る数奇な物語

70年の時を経て

ヴィルヘルム・フルトヴェングラーという指揮者がいた。

1954年に亡くなったので、死後64年も経つのだが、いまだにクラシック音楽の世界では人気があるというか、神格化されている。

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー ヴィルヘルム・フルトヴェングラー 1886-1954〔PHOTO〕gettyimages

同じ演奏が何度もリマスタリングやパッケージを変えて発売され、現在活躍している指揮者の最新の演奏よりも売れる。

12月には、そのフルトヴェングラーが第二次世界大戦中に指揮した演奏が22枚のCDとしてまとめられ、セット価格35,000円で発売される。

フルトヴェングラー 帝国放送局 (RRG) アーカイヴ 1939-45

そのセールスポイントは、今回初めて世に出る演奏がある、ということだ。

70年以上前に演奏され、録音されながらも、ずっと封印されていたものが、ついに日の目を見るのである。

この録音には、20世紀最大最悪の二人の独裁者、ヒトラーとスターリンが間接的に関係している。

以下は、その数奇な物語だ。

 

ヒトラーによる援助

フルトヴェングラーが生まれたのは19世紀後半の1886年。

作曲家を目指していたが、父が亡くなったので家計を支えるために、指揮者になった。

1910年代から指揮者として活躍し、キャリアを積み、1922年に、世界最高峰のオーケストラであるベルリン・フィルハーモニーの首席指揮者になった。

さらに、ウィーン・フィルハーモニーやベルリン州立歌劇場でも指揮をするようになり、音楽界の頂点に立ったところで、1933年、ヒトラー政権の誕生とぶつかった。

フルトヴェングラーはその全盛期がナチス時代と重なるという悲劇の世代だったのだ。

ヒトラーはワーグナー好きで、さらにベートーヴェンなどのドイツ音楽を愛好していたので、政権を取ると、ベルリン・フィルハーモニーやバイロイト音楽祭を経済的に援助した。

世界恐慌後、財政難だったベルリン・フィルハーモニーにとっては、救いの神でもあった。

すでに世界的指揮者となっていたフルトヴェングラーは、ヒトラーの誕生日に演奏したり、握手している写真を撮られたりと、この政権に協力しているように見えた。

そのため、戦後しばらくは公の場では演奏できなくなるのだが、ナチスの党員だったわけではないし、ホロコーストや戦争の政策決定に関与していたわけではないので、それほど重い罪には問われなかった。