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森鷗外の孫、東大卒医師が「町のお医者さん」になった理由

金も名誉も捨ててまでなぜ?

エリート医師がカネも名誉も捨てて町の訪問医に?

「いま僕がやっているのは、『治せない医療』です。外科医としての40年間、その後の在宅医療の13年間。医者の表裏に携われて、僕は非常に満足しています」

そう穏やかに語るのは、小堀鷗一郎さん(80歳)である。小堀さんは森鷗外の孫にあたり、東京大学医学部卒業後、食道がんを専門とする外科医となる。

東京大学医学部付属病院に勤務し、その後、国立国際医療研究センターでは病院長まで務めた。まさにエリート医師。

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だが、65歳で定年退職を迎えると、いくつもの名誉職の打診を蹴り、いまは埼玉県新座市の堀ノ内病院で訪問医療に従事している。小堀さん本人はこう続ける。

「それまで訪問医になる考えなんて毛頭ありませんでした。そもそも在宅医療の世界があることすらほとんど知らずに医者をしていました。病院長になった最後の3年間は、経営の仕事に忙殺され、手術をすることもほとんどありませんでした」

 

そんな小堀さんはあることをきっかけに、「また現場に戻りたい」と思うようになった。

「僕が病院長を務めていた最後の年に、元総理の橋本龍太郎さんが入院されました。それで僕は立場上、手術室に入った。そこで久しぶりに手術室の匂い、雰囲気、緊迫感を感じて、忘れかけていた外科医の本能を思い起こしたんです」

小堀さんは当初、手術をするために埼玉県の病院の常勤医になった。だが、赴任から3年後に在宅医療に関わって以来、それに身を捧げて、350人以上の看取りに関わってきた。