写真:小川光

遺伝子で家を作る「ゲノムハウス」にミレニアル世代が込めたメッセージ

ジーンクエスト・高橋祥子社長に聞いた

「遺伝子レベルの快適」が当たり前になる

「ゲノム(遺伝子情報)解析のコストは、この15年間で10万分の1まで下がりました。医療の領域では、すでに解析結果を応用した治療も始まっていて、例えばその患者に最適な抗がん剤を、ゲノムにもとづいて選ぶ治療などが行われています。

ゲノムの研究は、現在は医療分野の緊急性が高いものから進められていますが、これからは食事や睡眠、運動といった人間の日常生活と、ゲノムの関わりについての研究や応用が本格化してくると思います。『ゲノムが暮らしに応用される社会』がやってくるのは、それほど遠い未来のことではありません」

 

誰でも自分のゲノムを解析し、体質や病気発症リスクを知ることができるサービスで、いま注目を集めているベンチャー企業「ジーンクエスト」。同社設立者で社長の高橋祥子さんは、ゲノム解析の次なるフロンティアは「日常生活への応用」だと話す。

ジーンクエストの高橋祥子社長

ひとりひとりのゲノムにもとづいて、遺伝子レベルで快適な部屋を作り、必要な栄養素を摂取して、最適な時間に睡眠をとる……そんなSFみたいなことができる時代が目前に訪れているとしたら、私たちの生活はどう変わるのだろう?

このアイデアを具現化した、あるプロジェクトが注目を集めている。遺伝子データでつくる家「GENOME HOUSE(ゲノムハウス)」だ。

本プロジェクトは、ジーンクエスト社と、パナソニックの社内デザインスタジオ「フューチャー・ライフ・ファクトリー」、そして国際広告企業マッキャン・ワールドグループのミレニアル世代によるイノベーションプロジェクト「マッキャン・ミレニアルズ」の3社共同によるもの。根幹を担うのは、1988年生まれの高橋さんを筆頭に、次の時代を担う30代のビジョナリーたちである。

ここに、ごく普通の日本人女性、ショウコさん(30歳)がいるとする。彼女の遺伝子情報を分析すると、例えばこんなパーソナリティがわかる。

「GENOME HOUSE」コンセプト

お肌の保湿力が低く、乾燥しやすい。起床時間は遅めが適している。栄養素の中で、葉酸とビタミンEを吸収しづらい。アレルギー感受性が高く、匂いに敏感。

GENOME HOUSEでは、これらの分析結果にもとづいて、部屋の中のさまざまな設備を整え、ショウコさんにとって「遺伝子レベルで心地よい」生活を提供する。

照明の調光を、朝遅めの時間に合わせて明るくする。菌やウイルスを吸着しやすい、サンゴを素材にした壁紙を使う。空気清浄機の設定を最適化し、ショウコさんが特に嫌いな、汗やタバコの匂い物質を集中的に取り除く。不足している栄養素を豊富に含んだ野菜・果物を、自動的に送り届けてくれる…。

「GENOME HOUSE」コンセプト図
拡大画像表示

もちろん「ショウコさん」のモデルは高橋さんだ。実際に、高橋さんのゲノムをサンプルとしてGENOME HOUSEは構築されている。

「疾患のリスクや体質には、遺伝要因と環境要因がどちらも影響していて、その比率は項目によって違います。例えば同じがんでも、乳がんは遺伝要因がかなり高くて、『持っている人はほぼ発症する遺伝子』が存在します。でも肺がんの場合は、遺伝要因は10%くらいで、あとは喫煙などの環境要因が大きいと言われています。

体質の場合も、遺伝要因が大きいものと小さいものがあります。例えばアルコール耐性は遺伝要因が大きくて、お酒に弱い人が急に強くなるということはないですよね。そうすると、アルコールに関連する疾患にかかるリスクも大きく変わってきます。

私の場合、例えばダニや花粉などのアレルギーになりやすい体質であることがゲノムから推定されるので、家具にもダニが湧きにくい素材を多く使うとか、カーテンに花粉がつきにくい素材を使うといった判断ができます。住まいの環境を決める時に、こうしたゲノムから得られる情報にもとづいて考えることができれば、より健康で豊かな生活ができるんじゃないか、というのがGENOME HOUSEの狙いです」(高橋さん)