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# 思想

実証研究が続々…飲むと人を愛してしまう薬「ラブ・ドラッグ」の効用

得られるのは「本物の愛」なのか

誰かを愛するという経験は、人生の中で最もロマンティックな経験だ。偶然に出会ったその時に、雷にでも打たれたようにビビッと恋に落ちた人もいるだろう。いつの間にか隣人が掛け替えのない存在になった人もいるだろう。しかし、どちらにしても、そうした経験は恋や愛が続く限り、運命の魔法のように感じられる。

しかし、現代の科学は、そんなロマンティックな愛の経験にも容赦なくメスを入れつつある。それによれば、ロマンティックな愛の経験は、運命がもたらしたものでも、時間が育んだものでもない場合があるというのだ。

信じがたいことだが、日常的に服用する薬の影響で、本来なら選ばなかったはずの人を好きになったり、反対に、本来なら好意を寄せたはずの人が魅力的に見えなくなることが分かってきたのだ。

つまり、愛を増進させる効果を持つ「ラブ・ドラッグ」と、愛を減退させる効果を持「アンチ・ラブ・ドラッグ」が、現実に存在するということだ。果たして、あなたがその人を愛しているのは、その人の魅力に惹きつけられた結果なのだろうか? あなたが関心を示さないその人は、本当にあなたの好みではないのだろうか?

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副作用としての「愛」

薬の副作用とは、服用している患者の身体または精神への、意図しない、通常は望ましくない影響のことだ。副作用と呼ばれるものの大半は製薬会社によって把握されているが、把握されたすべての副作用が正式に文章化されているわけでもなければ、そもそもすべての副作用が把握されているわけでもない。

近年、インディアナ大学の生物人類学者であるHelen E. Fisherらによる研究は、広く使用されている医薬品の中には、副作用としてはほとんど知られていない、人間のロマンティックな関係に「深刻な心理的、社会的、遺伝的影響」をもたらすものがあることをつきとめている。そうした医薬品は、パートナーの選択、評価、追求のみならず、ロマンティックな愛の感情や、パートナーへの愛着の表現を可能にする神経メカニズムに影響を与えているというのだ。

彼らによれば、その一つは、抗うつ薬として処方されることの多い選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)である。この薬によって、日常生活を普通に送れるようになる人も多いが、他方で、対人関係に負の影響を与えることも分かってきた。

例えば、SSRIは、その副作用として性欲を低下させることが知られていたが、それ以外にも、他者の感情への配慮など、他者を気遣う感情が鈍くなることが分かってきている。セントルイス大学の神経生物学者であるDixie Meyerは、SSRIは「ロマンティックな関係を圧倒する無感情をもたらすかもしれない」と述べている。

 

他者に興味がなくなる「無感情」が現れない場合でも、性欲の低下によって、ロマンティックな関係がうまく築けなくなる場合もあるようだ。上述のHelen E. Fisherらの研究では、SSRIの影響で性欲減退とインポテンツを経験した男性の事例を紹介している。それによれば、その男性は、性行為ができないことを恥ずかしく感じるあまり、知り合った女性と深い関係になるのを避けたり、打ち切ったりしているという。

これらの事例では、SSRIは、結果的に「愛の経験」を回避させるという意味で、「アンチ・ラブ・ドラッグ」の効果を発揮していると言えるだろう。では、「ラブ・ドラッグ」の効果をもたらすものには、どのようなものがあるのか?