任天堂「マリオカート裁判とネットで大拡散したクッパ姫」を読み解く

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木村 剛大 プロフィール

何が「不正競争」だったのか?

東京地裁は、判決で不正競争防止法違反を認めた。

具体的には、MARIモビリティは、営業上の施設と営業上の活動において、「マリカー」「MariCar」「MARICAR」「maricar」という表示を使用してはならない(ただし、外国語のみで記載されたウェブサイトやチラシは除く)、また、営業上の施設と営業上の活動において、キャラクターのコスチュームを使用してはならない(レンタルもダメ)などの内容の判決を下した(正確には投稿動画の削除、ドメイン名の使用などその他の争点もあるが、すべては紹介できないためこの記事では割愛している)。

また、損害賠償としてMARI モビリティは任天堂に対して、1000万円を支払え、ということも命じられた(任天堂は、損害額として7490万円を主張していて、そのうちの1000万円を裁判上で請求しており、MARIモビリティの売上に使用料相当額を乗じて計算して裁判所が認めた損害額が約1026万円であったので、判決では1000万円が認められている。具体的な売上金額や使用料率は判決で開示されていない)。

不正競争防止法というのは著作権ほど馴染みがないかもしれないが、実務ではよく使われる法律で、著作権法とはまた別の切り口での保護を提供している。

不正競争は色々種類があり、そのなかのひとつに、「周知表示の保護」という類型がある(不正競争防止法2条1項1号)。

これは、ある人が営業のために使っている表示が広く知られる状態になっている場合、他の人がその表示と似た表示を使って営業行為をして需要者に誤信を生じさせることを不正競争とする制度だ。

この制度では、表示が有名であることが保護するための条件になっていて、表示が有名であるほど保護されやすい。

 

この判決では、任天堂の「マリオカート」シリーズは平成4年8月27日にスーパーファミコン用ソフト「スーパーマリオカート」を第一作として、平成28年12月31日までに、国内・世界累計で1億1150万本販売されており、「マリカー」という表示は、「マリオカート」の略称として平成8年ころにはゲーム雑誌に使用されたり、平成22年ころにはゲームとは関係性の薄い漫画作品でも注釈なく使用されていたり、また、MARIモビリティが設立される前日である平成27年6月3日にも、「マリオカート」を「マリカー」の略称で表現するツイートが600以上もTwitterに投稿されていたりしたと認定されている。

このように、「マリカー」は、一般人にも広く知られていたために、これと似た「マリカー」「MariCar」などの表示の使用は不正競争と裁判所に認定された。

しかし、東京地裁は、日本語を理解しない外国人の間では「マリカー」という表示が任天堂の表示として広く知られていたとは認められない、としている。そのために、判決では、「外国語のみで記載されたウェブサイトやチラシは除く。」という留保がついたのである。

不正競争防止法がよく使われるのは、「表示」というのは、ブランド名やロゴに限定されておらず、これらと同じように出所を表示する機能があればよいとされているという理由もある。

製品の特徴的なデザインであってもよいし、キャラクターでもよい。マリオくらい有名なキャラクターだと色々と商品化もされているから、マリオがついていたら任天堂の商品だと思うだろう。それが出所を表示する機能があるということだ。

ただ、需要者に誤信が生じれば何でもよいわけではない。あくまで任天堂の表示とMARIモビリティの使う表示が似ていることが条件として必要になる。

この点で、今回の判決はかなり踏み込んでいる。コスチュームを営業上の施設と活動に使用することまでも禁止しているが、普通、キャラクターの一番の特徴的部分は顔だろう。しかし、MARIモビリティが使用しているとして問題とされた表示のうち「マリオ」や「ルイージ」は顔のないコスチュームである。

任天堂は、マリオやルイージなどのキャラクター画像が広く知られた表示だと主張していて、顔の部分を抜いたコスチュームだけで広く知られた表示だという主張はしていない。

判決でもコスチュームはマリオなどのキャラクターの特徴の一部しか備えていないとはいっている。しかし、マリオが非常に有名であること、マリオカートのゲーム内容とMARIモビリティの公道カートレンタルというサービス内容からすると、需要者であるユーザーは、任天堂とMARIモビリティとの間に使用許諾を受けている関係にあると誤信すると結論付けたのだ。

マリオなどの任天堂キャラクターが非常に有名であることとゲーム内容のいわば実写版のような内容であったという事情が強く働いて、コスチュームを営業で使用することまでも任天堂のキャラクターという表示と類似する表示を使っていると評価して、コスチュームのレンタルも広く禁止するという判断に至ったのだろう。