賀建奎准教授〔PHOTO〕gettyimages

人類史上初「遺伝子操作ベビーの誕生」は本当か、それともフェイクか

今後の研究の逆風になることは必至

中国の科学者が「ゲノム編集でエイズ・ウイルス(HIV)への抵抗力を備えた赤ちゃんを誕生させた」と主張している。

もしも本当なら人類史上初の遺伝子操作ベビーの誕生となるが、生まれた赤ちゃんの健康に関する懸念や、今回の(事実上の)臨床研究が半ば秘密裡に進められたことなどから、「時期尚早で無謀な人体実験」との批判が科学界の大勢を占める。

今回、ゲノム編集ベビーの誕生を主張しているのは、中国・南方科技大学(広東省深圳市)の賀建奎(He Jiankui)准教授。同氏は今月25日、動画サイトYouTube上に「中国の夫婦から提供された受精卵に遺伝子手術(ゲノム編集)を施し、HIVへの抵抗力を持つ健康な双子の女児を誕生させた」とするビデオを公開。これとほぼ同時期に応じたAP通信の独占インタビューでも同じ主張をしている。

このビデオの中で賀建奎・准教授は「双子の女児は数週間前に誕生し、今は夫婦の家にいる。女児たちに(ゲノム編集による)想定外の遺伝子改変のような副作用は見られない。(今回の研究は)差別に苦しむHIVポジティブの人達を救うための試みだ」という主旨の発言をしている。

ただし、この臨床研究に関する査読済みの学術論文は未だ発表されていないため、その信憑性を疑う科学者も少なくない。准教授は今月27~29日に香港で開催される国際会議「ヒト・ゲノム編集サミット」で、今回の臨床研究に関するデータを発表すると見られている。

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SFと現実の距離

これまでSFの世界では、人間に対する遺伝子操作や、それによる冷酷な階級社会の出現などは、しばしば扱われるテーマだった。

たとえば1932年に英国の作家オルダス・ハクスリーが発表したディストピア小説『素晴らしい新世界(Brave New World)』、あるいは1997年に公開されたアメリカ映画『ガタカ(GATTACA)』などが、その代表であろう。

また実際に動植物の遺伝子を操作する「遺伝子組み換え技術」はすでに1970年代に開発されている。これらのことから、(人間の)遺伝子操作ベビーも、こうした技術を使えば(かなり以前から)実現可能だったのではないか。そう思われる向きも(ひょっとしたら)あるかもしれないが、事実は違う。

 

これまでの遺伝子組み換え技術は、その操作精度が極めて低い等の理由から、人間はおろか猿の遺伝子さえ操作することは不可能だった。この技術は基本的に実験用マウスに適用され、ごく稀にブタのような家畜、あるいは鮭のような魚に応用されるのが精一杯だった。

つまり遺伝子操作ベビーはこれまでのところ、あくまでSFの世界に留まっていた。仮に賀准教授の主張が真実だとすれば、(遺伝子組み換えとは桁違いの高精度技術である)ゲノム編集によって現実がSFに追い着いたことになる。

あるいは逆に彼の主張が虚偽であったとしても、それが多少の真実味を帯びて聞こえる程度にまで「SFと現実の距離が縮まってきた」ということだけは言えるだろう。