「労基署に行くぞ!」会社脅すモンスター社員が、日本に与える大損害

相談に乗る職員も困っている
中沢 光昭 プロフィール

そして、ネットに情報が溢れていることやブラック企業が話題になったことを背景に、一般の人々の労働法や雇用についての知識が底上げされていること。興味がなかった人でもいざ自分に関わる問題が起これば詳しく調べられる状況です。

もちろんこの変化自体は悪いことではありません。しかし他方で、労働者を守るための法律を、自分の都合によって拡大解釈して行動する人も増えてきているようです。詳しく理解していない状態でも、とりあえずネットで拾った言葉を頼りに「**という書面を出して」とそのまま使ってしまうこともあります。

労働基準監督署にはそうした少し過剰な行動をしてしまった人たちからの相談が増えているようです。繰り返しになりますが、冒頭のエピソードのようなセリフが出てしまうのはそんな背景があってのことでしょう。

相談を受ける職員の側も分別がありますので、いちいち「とんでもない会社だな!」と一緒に目くじらを立てられないようなケースも増えているとのことでした。もちろんブラック企業に勤めていて深刻に悩んで来るケースも多いので、1つ1つ問題を丁寧に紐解いていかなければなりません。

年金の不正受給問題と同じようなもので、少数の悪い例が圧倒的多数の正常な人の印象を悪くしていることがあるのかと思います。

 

「モンスター」な行動は、本人にとっても損

何か小言を言われても、「労基署に相談する」と言えば会社・人事はビビる。だから新しく入った会社で気に入らないことが見つかれば、人生の大切な時間を無駄にしたことや経歴を汚したことと引き換えに、臨時の退職金を貰って辞めてしまおう――。そんな計算ができる人ほど、面接がうまかったりもします。

しかし、そうした行動をとることは本人にとっても長期的に見ればお得とは言えません。転職する際に人材エージェントを使った場合、入社後に会社とモメたとしたら、会社と従業員とどちらが正しいかとは全く別に、その情報はいかようにでも歪曲されて、間違いなくその人材エージェントには転職者のネガティブ情報として受け取られます。その人材エージェントもトラブルは避けたいので、以後相手にしないようになるでしょう。

同業他社同士で比較的交流のある業界なら、転職しようとした時にはレファレンス(社内でどんな様子だったかの確認)が入ります。「すぐに労基署に駆け込む」という評判が立てば、ちゃんとした会社はそれだけで採用を避けるでしょう。ちゃんとしていない会社にはレファレンスが取られないことが多いですが、その会社に入ることは果たしていいのかはわかりません。

新しく入った職場において理不尽な目にあっていると思った場合、いきなり労基署や社労士に相談したりする前に、とりあえず数日休んでみることです。辞めるにあたって真正面から不満をぶつけることよりも、モメることになったら何を失うかを考えることをお勧めします(もちろん会社が悪質な場合は別です。この点は強調しておきます)。

会社とモメた場合、短期的にはお金を得られたり、気分がスカッとしたりするかもしれませんが、失うものも大きいです。

社会全体に与える損害も大きい

「モンスター」な行動は、個人だけではなく社会全体に対しても悪影響を与えます。こうした極端な事例が増えてくると、会社も採用方法を悪い方向に変えざるを得なくなるかもしれないのです。

たとえば、良い人材を採るためにとりあえずたくさん採用して、見込みがないと思った人材に対しては、一人ひとりじっくり心を折るような話し合いをすることで辞めてもらうという方法に変えた方が効率的だ、と考えているような会社もあります。

ミスマッチを気にせず、大量採用、大量解雇を行うということです。クビにする力を備えることが、結果的に採用力を上げていくことになってしまいます。

 

普通の感覚であれば、時間をかけてインターンを行ったり、食事をしながらじっくり話すような場を重ねたり、アルバイトからの採用に限定するなどの手段によって人材の質を見極めていくことになります。ただそれは財務的にも事業的にも安定した会社でもない中小企業にとっては難しいでしょう。

会社の優勝劣敗が進むことになると、ますます大学卒業時の新卒一発勝負が人生を大きく左右することになりそうです。

モンスター社員の暴走は、こうした採用の難しさに拍車をかけているのです。