殴りかかられて…81歳・認知症の父に運転をやめさせる手段探しの道

運転免許に固執する父との奮闘記:前編
田中 亜紀子 プロフィール

藁をもすがる気持ちで管轄の運転免許センターに電話をした。正式な窓口名はわからなかったので「高齢者の運転の相談係をお願いします」と電話をまわしてもらった。電話口に出た方はこう言う。

「基本は自主返納を説得します。ただ3月の法改正で、75歳以上は免許更新時に認知機能の検査をすることになったので、お父様の場合、次の更新ではひっかかりますね」

絶望的な気持ちになった。自主返納は無理。しかもうちの父の更新時期まであと2年もある。一度更新された免許は、81歳の父でも更新から3年間はそのままなのだ。

困り果てて市民病院の別の神経内科の先生の診療に行ってみた。その時出会ったベテランの女医さんは対応が違った。父への説得もひざ詰めで、「ご自身は気が付かないのが認知症という病気なんです。何かあってからでは遅いんですよ、運転はやめましょう」と時間をかけて言い続けてくれた。しかしそれでも父は「運転はやめません」とかたくなである。

今回もだめか、と思ったその時、医師が私にこっそり言った。「たしか警察で免許をとめてくれる部署があると思う。詳しくわからないけど」。

先日警察の運転免許センターと話した時にはそんな情報はなかったが……。

 

「認知症と診断されたら運転はできないはずです!」

帰宅して、すぐにまた調べると、免許取り消しは公安委員会が行っているようだ。さっそく居住地の公安委員会に電話をかけた。そこから免許関連の実務を担当する警察の部署に電話を回してもらう。すると先日を同じ運転免許センターではあるが、「適性相談室」という名称の部署につながった。「認知症の父がまだ運転していて困ってるのですが、こちらで強制的に免許を停止できるって本当ですか?」と尋ねた。

「状況によって、免許取り消しの手続きができる可能性はあります」

担当の方はこう言うと、認知機能の低下の疑いだけではなく、正式に認知症の診断がおりたことを私に確認すると、「診断した医師はなんと言っていましたか?」と逆に尋ねられた。自主返納以外の策はないと運転を黙認されている対応をそのまま答えると、「それはどちらの病院ですか? 認知症と診断されたら運転はもうできないことになっています。免許取り消しに向け、こちらのフォーマットの診断書に書き込んで提出してもらうよう病院には通達しています」と、憤慨した声で言ったのである。

家族、あるいは医師からの申し立てを経て診断書が提出されると、公安委員会が吟味し、必要があるとわかると本人に、取り消し処分に向けての聴聞会の通知が郵送されるという。通知が来るまでには1カ月~時には数カ月かかるときもあるとは言うが、なんだ、できるのではないか!! なんで誰も教えてくれないのだ!

こちらが「一定の症状を呈する病気等にある者を診断した医師から公安委員会への任意の届出」ガイドラインの中に医師が申し立てる際の届出書が含まれている 

もしかしたら、これは3月の法改正で決まって、みんなも知らないのかもしれない。その疑問をぶつけてみると、「いいえ、この方法は、今回の改正前からずっとあって、はっきり認知症と診断されたら運転してはいけないと前から決まっています」

免許問題に関わって、初めて納得のいく意見を聞くことができた。なのに医師はおろか、お役所の介護系も、同じ運転免許センターの他の係の方もこういう情報を認識していなかった。

なぜなのか、大きな疑問はわいてきたが、とにかく「手段」はあった。が、それにもかかわらず、事態はさらなる修羅場へと向かっていったのである。