緊縛され、解き放たれる…作家が垣間見た「性の奥深き世界」

中村文則さんインタビュー
中村 文則 プロフィール

話を聞いて意外だったのは、性器に触れられずにオーガズムに達する「脳イキ」というものがあることと、縛られることによって精神的、性的に解放されるという心理。

性的な行為には恥じらいや躊躇がつきものですが、縛られることで「私のせいじゃない」と諦めがついて、許される気分になるそうです。奴隷になる喜びというのもありますね。そうした性の奥深さも書くことができたのではないかと思っています。

 

ーー実際に緊縛を体験してみました?

練習しましたよ。今では雑誌を資源ゴミに出す時に、亀甲縛りでまとめることができます(笑)。縛られてもみましたが、僕は性的にSなので、その心地よさを理解するのは難しかった。それと、作中にも出てきますが緊縛ショーも見ました。観客の半分以上が感動して泣いているのも印象に残りました。

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ーー表紙は縄で複雑に縛られ吊るされた女性の写真ですが、これは撮り下ろされたものだとか。

ロープアーティストのHajime Kinokoさんのオリジナルな作品です。せっかく読者が手にとってくださるのだから、いいものにしたくて。16年も作家をやっているとこんな豪華なことができるんですね。

ーー題辞に「すべての虚無に。」とあるように、虚無がキーワードですね。

昔から僕は虚無感を持っているというか、自分はこの世界の通行人にすぎないという感覚があって。悪い意味ではないんですよ。虚無的にとらえることによって「世の中そういうものだよね」と、楽になることもある。ただ、やはりこの本が今出される意味は示したかったので、時世のものとしてヘイトについても書きました。

そうした要素も入れつつ、縄から始まりミステリの要素で先をどんどん読める作りにしつつ、虚無的な空気を出す。比較的薄めの本でここまでできるとは、自分でも思いませんでした。

次は融和を書きたいですね。この世界で起きている断絶を、なんとか融和できないかと考えたい。

ーー中村作品は映像化が多い。今もデビュー作の『銃』が公開中です。

原作者が言うのも変ですが、本当に素晴らしくて驚きました。映像の力ですよね。銃を拾った青年を演じる村上虹郎さんは、すごい人が映画界に現れたと感じます。

その先の道に消える』は映像化したら間違いなくR-18指定ですね。誰かやらないかな(笑)。(取材・文/瀧井朝世)

『週刊現代』2018年12月8日号より