Photo by iStock

緊縛され、解き放たれる…作家が垣間見た「性の奥深き世界」

中村文則さんインタビュー

奥深い緊縛の世界

ーー純文学とミステリを融合させた作品で国内外で支持を得る中村さん。新作『その先の道に消える』は、縄師が殺されるという冒頭から、想定外の広がりを見せますね。

僕はこれまでにも精神的なSとMを書いてきましたが、今回はど真ん中のものを書こうと思い、緊縛師について調べてみたんです。すると、ものすごく深い世界が見えてきたんですね。

今はSMのイメージの緊縛も、そもそもは古武術に由来し、罪人をいかに正確に縄で縛るかという技術が発達していく。また、かつて女性だけで演じていた歌舞伎では、折檻で緊縛をする場面もありました。

 

緊縛には麻縄が使われますが、これは神社の注連縄に使われるものと同じですし、縄文時代から麻縄は使われている。麻が日本文化に欠かせないものだというところから、日本らしさとは何なのかというのを、冷静な視点から提示することができる。これは面白い話が書けるぞと思いました。

ーー殺人の容疑者の麻衣子は、偶然にも事件を担当する刑事・富樫が密かに心惹かれていた相手。彼は彼女を庇おうとし、先輩刑事の葉山は彼の行動に不信感を抱き……。そして中盤であっと驚くことが起きます。

小説の前提を覆すようなことが起きる、というのは決めていました。絶対に予想できないことを起こしたかったし、そうすれば小説全体に緊迫感が生まれると思いました。

ーー登場人物たちはみなどこか危うく、揺れている印象です。

人間誰しもが不安定さを持っている。たとえば富樫は好きな女性が容疑者と知って動揺し、無意識のうちにミスを犯す。葉山も揺れていますよね。事件容疑者と人間関係を築いてから自白をとる、というのが通常の彼のやり方ですが、この事件に関してはそれができない。

今回登場するある女性は、僕がこれまで書いた中でも一番危うくて、善なのか悪なのか無垢なのか分からない。他にも悪の象徴のような人間が出てきますが、僕はその人物も悪とは言い切れないと思っています。

苦しみと快楽が重なるSMと同じで、善と悪も入れ替わる。完全な悪人も善人もなく、彼らはみんな精一杯なだけだった。そのことは、この話の虚無的な空気とうまく合わさりましたし、読み返した時に、不思議な前向きさが出ていると気づきました。

奴隷になる喜び

ーー緊縛シーンについては、取材されたのですか。

緊縛は今、密かにまたブームが来ているらしいですね。縛る側が縛られる側を痛めつけるイメージがありますが、実は緊縛師は縛ってもらいたいところを縛ってあげるという、奉仕する側だそうです。ただ、望まれるままではなく、少し驚きも与えないといけない。でも驚かせすぎるのは単なるエゴ。そこがまさに文学的だなと感じました。

ひとつ注意したのは、男性が女性を縛る場面で、女性がどう感じるかを僕が書くと男のエゴイズムになる危険がある。それで、フェティッシュバーで縛られる側の女性に取材しました。だから、その部分はリアルなものになっているはずです。