政府主導のキャッシュレス社会は「デジタルファシズム」の前触れだ

ほんとうに国民のためになるのか?
大原 浩 プロフィール

交通系カードは便利である

キャッシュレスの議論の中で忘れられがちなのは、スイカ、パスモなどいろいろなタイプのある交通系カード(電子マネー)である。

これらの交通系カードはポイントも割引もなく、前払いで500円ほどだがディポジットまで必要なのに爆発的に普及した。

便利で匿名だからである。ただし、自動チャージ機能を使うと銀行口座に紐づけされる。私も、昔のように券売機の上の路線図を見て金額を確認しながら行列して切符を買うような時代には戻りたくないと思う。
 
しかも、普通は週に5日・朝晩(=週に10回)駅に立ち寄るのだから、現金チャージの手間は最小限だ。最近は、特に都市部のマンションなどは駅前立地が好まれ、徒歩10分どころか、徒歩7分が標準になりつつあるから、休日でもコンビニのATM感覚でチャージできる。

現在のところ、交通系カードで購入できるのは、切符以外にはKIOSK(鉄道系コンビニ)の商品や構内の自動販売機(対応するものだけ)、さらにはコンビニ、一部の小売チェーンなど、まだまだ限定的だが、この交通系カードが一般商品・サービスの購入に使えるようになれば我々の生活は飛躍的に便利になる。

交通系カードが一般商品にまでなかなか普及しないのは、小売店などの企業グループが独自規格の電子マネーをそれぞれ発行して縄張り争いをしているからである。

政府がキャッシュレス社会を推進して、国民生活の利便性を高めるというのであれば、企業間の縄張り争いをやめさせて、匿名性と利便性に優れた交通系カードに集約すべく指導しなければならない。交通系カードに集約しても、交通系カード同士の競合は残るから独占の弊害もあまりないはずである。

インターネットの世界では、ハンドルネームなどの匿名を使う人々が、資金決済ではすべての個人情報が吸い上げられることに無頓着なのは奇異な感じがする。

 

口座振替はすでにキャッシュレス取引

日本の食料自給率を論じるときに必ず持ち出される、「カロリー・ベースの自給率」という奇妙な数字がある。普通、経済統計は金額や数量で表されるが、その数値では危機感をあおって農産物の関税強化や農家保護に動けないので、できるだけ自給率を少なく見せるために役人が考え付いたトリックである。

キャッシュレスの議論でも同じである。一般に流布しているデータでは、日本のキャッシュレス比率がいかにも低いように思われるが、日本ではそれらの統計に入っていない口座振替(引き落とし)が飛躍的に発達している。

家賃、公共料金、税金、定期頒布会の代金、ローンの支払い、月会費等など数え切れないほどの口座引き落としがあり、それらを除く、実際に口座から現金を引き出す取引は意外と少ない。たぶん50%くらいではないだろうか?それに近い数字の調査報告も見たことがある。

さらに、総合振込などの電文にXML電文を採用する「全銀EDIシステム」が、2018年12月から稼動を開始する。要するに、字数制限なく自由に文章を添付できる画期的取引である。

これまでも20字までは添付できたのだが、特に企業間の支払いでは、振り込まれた金額が、どの請求書に対するものなのか確認する「消しこみ」という作業で支障をきたしていた。文字数が少なすぎて役に立たなかったのだ。
 
キャッシュレスと大騒ぎして新しい技術やシステムを大々的に導入しなくても、既存の技術やシステムの範囲内で、顧客の利便性は十分に高められる。

そもそも、世の中を一新した「インターネット」は、いわゆるオールドテクノロジーの塊で、インターネット普及のきっかけとなった情報ハイウエイ構想がぶち上げられた1990年代初めでさえ、目新しい技術は何も含まれていなかったのだ。
 
第一、電子決算の比率を高めたとして、停電が起きたらどうするのだろうか?

北海道大震災はまだ読者の記憶に新しいと思うが、当時、キャッシュレス派は大変な思いをした。

コンビニだろうが、スーパーだろうが「電子決済」は電気が無ければお手上げである。下手をしたら飢え死にしかねない。ちなみに、救急車も消防車も電気自動車だと停電時は役に立たないし、オール電化も、この場合、地獄への最短経路である。

だから、停電を想定して私は現金を常備しているが、できるだけ1万円札は避けるようにしている。災害時には釣銭をもらえるなどと思ってはいけないからだ。1000円札と小銭をできるだけ多く保有するようにしている。

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