健康そのものだった52歳ライターが、心臓発作で死にかけた話

完全に他人事と思っていたら…
上阪 徹 プロフィール

私の一つ目の幸運は、この3週間前に、俳優や監督にインタビューするため、来年2月公開の映画の試写を見ていたことだった。この映画の主人公が、一人でいるときに心臓発作に見舞われるシーンがあったのだ。

「そういえば、あのとき、俳優さんは喉をかきむしっていたような……」

もしや心臓かもしれない、と思った。10分が経過した。階下にいる妻に、なんとかLINE電話をかけた。LINE電話のほうがボタンが押しやすかったからだ。おかしいので来てほしい、心臓かもしれない、救急車を呼んでほしい、と。

マクラを抱えて四つん這いで汗だくになっている私を見て、妻はすぐに救急車を呼んでくれた。

 

実は「安静なとき」こそ危ない

このあたりから、やはり苦しかったのか、意識は朦朧とし始める。心臓発作の場合、救急車は消防車と一緒にやってくる。10分ほどで5人の救急隊員の方が見えたそうなのだが、私は人数を覚えていない。わさわさと血圧や心電図などがその場でチェックされ、「やっぱり心臓ですね」といった会話が行われたようである。

心臓発作だから心臓が苦しくなるのだろう。私もそうだったが、多くの人がそう思い込んでいる。だが違うのだ。これは後に担当医に聞いたが、私のように喉のあたりが苦しくなる人もいれば、左肩のあたりに異変を感じる人、胃がキューッと苦しくなる人もいるのだという。これも心臓発作なのだ。

知らなければ、肩の異変や胃の苦しみと心臓は結びつくはずもない。だが、そのまま放置したら危ない。私が後に病院で言われたのは、「とにかく早く救急車を呼んだのが良かった」だった。だが、もしあの映画を観ていなかったら、喉と心臓とを結びつけられず、救急車を呼ぶという選択をしなかったかもしれない。とんでもない盲点だと思った。

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もうひとつの盲点は発作が起きた時刻だった。朝、起き抜けにやってきたのだ。心臓発作といえば、激しい運動をしていたとか、激しい疲れがピークに達したとか、びっくりするようなショックが起きてとか、そういうことが引き金になるものだと、てっきり思い込んでいた。だが、それだけではないのだ。

これも後に担当医に聞いたが、即答された。実は安静状態のときこそ心臓発作のリスクは高まる、というのである。朝の起き抜け、というのは典型的な「魔の時間」。実際、ネットで調べてみたら、起床から1時間以内は心筋梗塞の発症リスクが高いという統計があった。朝の起き抜けこそ危ない、ということだ。

背景にあるのは、自律神経だ。自律神経には、活発に稼働するために身体を緊張させる交感神経と、睡眠時に前進をリラックスさせる副交感神経がある。交感神経が優位の状態、つまり起きているときは、眠っているときに比べて心拍数も増え、血管が収縮して血圧も上がっている。

朝は睡眠時、つまり副交感神経が優位な状態から、交感神経に切り替わるタイミング。全身が目覚める不安定なタイミングなのだ。ここで血圧が急激に上昇したりすると、血管が破れたり、血管内が詰まったりするリスクが高まる。

起き抜けは、実は身体にとっては危険な時間帯だったのである。だから、朝の起き抜けの運動がいかに危険か、ということも知った。ランニングをするなら、朝よりも夕方のほうがいい、とも教わった。