ソーシャルコミュニケーションを考える(1)
ポリオの予防接種問題に見るパブリックアフェアーズ

"意図"を感じる日本医師会の「説明文」

 前回は、コミュニケーションの起点となる「心の動き=インサイト」についてお話をしました。

 人間の心の中には、自分のための「利己的な欲」だけでなく、自分以外の誰か(他人)のために役に立ちたい、あるいは不合理を許せない)という「利他的な欲」が存在し、この「利他的な欲」がソーシャル・コミュニケーションにおいての重要なポイントとなることを指摘しました。この「貢献欲」とでも言うべきこの心の動きを"チャリティ"や"ボランティ"というダイレクトな貢献活動にだけでなく、新しいマーケティングの原動力に取り込めないか、と問題提議をしました。

 その上で、これから2回にわたって、そもそもソーシャル・コミュニケーションとは、どういうものか。実際にそれが機能した場合にどんな影響を与えるのか。どんな成果を生み出すのか、ソーシャル・コミュニケーションの実例を引きながら、その構造を見ていこうと思います。

ポリオワクチンの予防接種を受ける子供 (2010年3月、アフガニスタン) 〔PHOTO〕gettyimages

 5月18日に放送された『報道ステーション』(テレビ朝日系列)で、ポリオワクチン(新生児向けの生ワクチン)の問題が取り上げられました。ポリオとは、かつて、日本の子供のあいだでも大流行したことがある、当時は「小児麻痺」と呼ばれた病気でした(実際には大人にも発症する可能性があります)。

 正式には、「急性灰白髄炎<きゅうせいかいはくずいえん>」というウィルス性の感染症で、風邪のような症状が出たあとに、腕や足にしびれが現われ、その麻痺が生涯残ると言われています。日本では1960年代には6000人と流行した後、ワクチンによる予防接種で急激に発症数を減らし、2000年にWHOにポリオ根絶を報告しています。

 さて、今回問題になったのは、本来、ポリオを防ぐはずの予防接種により、不幸にしてポリオに罹ってしまった人がいることです。原因はポリオ感染の可能性がある「生ワクチン」が日本で使われていることです。海外では主流となっている「不活化ワクチン」を使えば、感染の心配がないことがわかっていながら、日本では、いまだに「生ワクチン」を使っているのです。

 この問題は昨年あたりから、何度かメディアに取り上げられるようになっていました。僕自身、偶然にも、うちの奥さんからこの問題を聞かされていました。

 以下は、日本医師会のホームページにある「ポリオワクチンでポリオになる?」というタイトルの説明文です。うちの奥さんは、これに憤慨していました(実際に品川区で子どもの予防接種を受けたときに、このような説明があったようです。)

 〈 ポリオの生ワクチンは、ポリオという病気を防ぐために行われます。

 ポリオは、熱を伴うかぜのような症状から、足腰の痛み、そして突然現れるだらんとした手や足の麻痺(弛緩性麻痺)が現れ、生涯にわたり運動障害が残ることの多い病気です。

 かつて日本には多くのポリオ患者さんがいましたが、ポリオ生ワクチンの一斉投与が行われるようになってから、その数は急激に少なくなり、1981年以来日本ではポリオの患者さんの発生はありません。アジア西太平洋地域でもポリオの発生はゼロになりつつありますが、世界中でポリオワクチンを中止にした国はまだなく、ワクチンを全く中止にして良いほどの安心できる状態にまではまだなっていません。なお、アフリカ、インド大陸などでは、まだポリオの患者さんの発生があります。

 ポリオの生ワクチンは、病原性がほとんどないポリオウイルス(弱毒ウイルス)をワクチンとして飲むことによって免疫ができ、自然のポリオウイルス(野性ウイルスまたは強毒ウイルス)の侵入が防げるものです。しかし生ワクチンの欠点として、極めて稀に、ワクチンを飲んだ人に自然のポリオと同じ様な症状が現れてしまうことがあります。これがポリオワクチンによる麻痺例 (VAPP) で、日本では約440万回接種あたり1件、数年間に1件生じています。

 またポリオのワクチンを飲んだ人の便からは、弱毒のワクチンウイルスが、1~2ヵ月間排泄され続けますが、これがポリオの免疫のない人の口から入ってしまうことがあります。その多くは、ワクチンを飲んだことと同じで免疫がなかった人に免疫が出来てしまうことになりますが、ワクチンの場合とやはり同じで極めて稀に自然のポリオと同じ症状が現れてしまうことがあります。

 またワクチンを飲んだ人の便から現れる弱毒のウイルスが、遺伝子の構造上毒性が自然のポリオウイルスに近い形の変異株となっていることもあります。これらをあわせて、ポリオのワクチンを飲んだことのある人の家族などからポリオと同じ症状が現れてしまうことが日本ではこれまでに約580万回の接種あたりに1件ほど出ています。現在日本では、これらの極めて稀なポリオの副反応をさらに少なくするため、新しいワクチン(不活化ワクチン)の開発が進行中です。

 日本医師会HP「ポリオワクチンでポリオになる? 〉

 いかがでしょうか。太字部分は僕がつけました。「生ワクチンの一斉投与でその数は急激に減った」という文章の入り方、「440万回に1回」「580万回に1回」という事故の確率、最後に付記された「新しいワクチンが開発中」・・・かなり"意図"を感じますね。うちの奥さんが怒っているのは、何もわからない一般の母親に、「生ワクチンでいいのだ」「滅多に問題は起こらない」「新しいワクチンはまだまだ開発中」という誘導に対してでした。確かに、そう言われても仕方のない説明です。

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