愛星保育園(写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝、写真撮影 鬼頭志帆)

保育が崩壊する日本で「お手本のような保育園」が教えてくれること

当たり前を徹底すれば「質」は上がる

次々に保育所を増やしている大手は、保育士にかけるべき人件費を施設整備に回している傾向が強い。それと比例するように保育士の処遇が悪くなり、低賃金・長時間労働で心身ともに疲弊して現場を去っていき、保育の質どころではなくなる。

東京都港区にある愛星保育園は姉妹園をもたないため、他施設への「弾力運用」(*)はしていない。

若手の保育士が「朝、おはよーと、クラスに入ると、子どもたちが、せんせー、せんせーと言って、ぎゅっとしてくれる。ちょっとしたことでも嬉しくて、子どもが可愛くて仕方がない。明日も会えると思うと幸せな気持ちになる」と話す。連載初回のブラック保育所で働く若手とは大違いだ。

かつて主流だったはずの「一法人一施設」できちんと人件費がかけられ、職場環境が整っていると働き手としても子どもにとっても保育が変わる。

*弾力運用とは:認可保育園に対して市区町村から支払われる「委託費」の内訳である「人件費」「事業費」「管理費」それぞれ使途制限がかけられていたが、規制緩和された結果、3つの費用の相互流用ができるようになった。さらには、同一法人が運営する他の保育所への流用、新規施設の開設費用への流用も認められている。このことにより、人件費比率が低くなり、「ブラック保育所」が生まれるという構造となっている。
 

保育士も手応えを感じている

「いらっしゃーい、いらっしゃーい。あわ、あわ、どうですかぁ?」

愛星保育園を訪ねた夏の保育が印象深かった。1階のテラスで1~2歳児が水遊びをしている。

2歳児クラスの担任保育士の河合忍さん(42歳)が子どもたちと水の入ったタライを囲んで、ハンドソープの泡を浮かべておままごとをしている。子どもがおたまでカップに泡を入れ、河合さんに「はい」と渡す。「ありがと~」と、笑顔で河合さんが答える。

テラスと外を仕切る金網のフェンスには、子どもの手が届く高さに、意図的に洗濯バサミのついた角ハンガーがかけてある。

実は前の週、泡で遊んでいるときに「布を洗ってみよう」という流れができていた。最終的には、自分の靴下を洗って干して、乾いた靴下を履いて帰ってみようと保育計画が立てられていた。その月の保育テーマは「水と友達」。

ふらりと、2歳の子が自分で洗ったタオルを絞って干しにきたが、うまく干せない。チラッと河合さんに目線を送り、助けを求める。すかさず河合さんが近寄って声をかけた。

遊びのなかで自然と発達が促されている

「タオルを干したくて、角ハンガーの前に立ち、右手で洗濯バサミを持って、左手でタオルをつまませるのが、まだうまくできない。やってみようと頑張ってみるけど、できなくて、私たち保育者のほうを振り向く。そんな瞬間、子どもたちをとても愛おしく感じる」と河合さんは微笑む。

2階のテラスを覗くと、3歳児クラスのダイナミックなプール遊びが目を引いた。組み立て式の丈夫な円形のプールの中で、担任の大山はるかさん(30歳)が思いっきり足をバタバタさせて水しぶきをかけると、子どもたちの、きゃあきゃあという歓声が起こる。

そのうち、みんなが「あーるいてっ♪、あーるいてっ♪」とリズミカルに口ずさみ始め、一列に並んで輪になって歩き出し、「せんたっきっ♪、せんたっきっ♪」と言いながらスピードを上げてぐるぐる回った。水流ができて勢いがついてくると「せーのっ!」。水に飛び込んで、子どもたちが滑るように泳いでは、キャハハと笑う。

保育士も子どもも、思う存分プールを楽しむ

保育士経験7年の大山さんは、目を輝かせて語った。

「自分が思う存分やりたい保育ができていると、子どもと一体感が生まれて手ごたえを感じます。子どもの笑い声が自分のエネルギーになって活力がわいてくる。保育は大変なこともあるけれど、毎日、楽しいことが待っている。そこにいけば、私の居場所がある」

子どもたちにとっても、大切な夏の思い出のワンシーンになったはずだ。こうした経験から、自分が出会った先生に憧れて実際に保育士になっていくのだろう。