ハゲタカジャーナル、ダメ絶対! でも、その横行にはそれなりの理由が……

あなたの知らない査読論文の世界
山田 俊弘 プロフィール

グレー判定を受け取ったら……

編集委員の判断でなんといっても一番多いのは、合格/不合格の判定を一時的に棚上げしておいて、

「レフリーからの反論に耐えることができるのならば、掲載を認める可能性あり」

とするものです。レフリーは通常、論文の論理展開の瑕疵や実験手法の問題、図表の不明瞭な点をレポート中で指摘します。論文の著者は「レフリーが指摘した問題点をすべて解決できるのならば、掲載を認めることもある」という通知を受けるのです。

グレー判定をもらった著者は忙しくなります。ジャーナルが設定した締め切りまでに論文を改善し、どこをどう改善したか、レポートにまとめなければならないからです。時にはレフリーに反論しなければならないこともあるでしょう。そして、改善した論文と、改善点や反論点をまとめたレポートを編集委員に送りなおします。これができなければ、不合格(掲載不可)になってしまいます。

著者が送りなおした論文は、再び同じレフリーの審査に回ります。著者とジャーナルの間の再審査のループは、すべてのレフリー、編集委員、編集長の全員が「この論文にはジャーナルに掲載する価値がある」と判断するまで続けられます。このように判断されることを“受理”と呼び、論文が審査に合格したことを意味します。

【図】合格時の論文の査読審査の流れ
  図3 合格時の論文の査読審査の流れ。論文審査もしくは再審査の過程で、レフリー、編集委員、編集長の全員が合格の判定を下したとき、論文が査読に通過したことになる

以上が、科学業界が採用している論文査読の過程です。「そこまでやるのか!?」と思われたかもしれません。そこまでやるのです。できるだけ誤りや曖昧さを排除し、正しい結果のみを受け入れるための工夫で、それこそが科学の姿勢、潔さなのです。そして、ここまでやってようやく、科学の健全性が保たれるのです。

もちろん、ここまでやったとしても、間違いを完全に排除できるわけではありません。査読に合格した論文が、新たな知見が提供されることによって、後になって否定されることも少なくありません。とはいえ、査読審査により、査読時点での科学知識で指摘しうる誤りのほとんどは、取り除くことができます。

私の経験からいうと、投稿から受理までには、どんなに短くても半年はかかります。多くの場合それ以上、1年以上必要な場合も少なくありません。グレー判定をもらい、レフリーの指摘に対してうまく論文を改善できなかったがために、審査の途中で不合格になることもあります。

この場合は、論文を投稿するジャーナルを変えて、一から査読審査をやり直すことになります。すわわち、審査の時間がまた同じだけ必要になるということです。不合格の通知を受け取って茫然自失になったことが、今までに何度あったことか……。

【写真】不合格の通知を受け取り茫然自失になったことも
  不合格の通知を受け取って茫然自失になったことは数知れず…… photo by iStock

査読論文からは逃げられない

では、ハゲタカジャーナルが横行してしまう理由に話を戻しましょう。じつは、科学者が立つ人生の岐路、たとえば、博士号を取得する時、就職試験の時、テニュア審査の時、昇任審査の時……こうした場面で、査読論文の質と数が科学者の力量を測る指標になります。科学業界で生き延びるためには、科学者は査読論文を出版し続ける必要があるのです。

一例として、科学者の人生においてとくに大きな分かれ道となるテニュア審査を紹介しましょう。