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ハゲタカジャーナル、ダメ絶対! でも、その横行にはそれなりの理由が……

あなたの知らない査読論文の世界

科学者が「論文」を書いているということは、だれもがなんとなく知っているだろう。テレビや新聞、ネットの記事などで、発表されたばかりの興味深い論文の内容が紹介されることもある。一方で、科学者はなぜ論文を書くのか、論文が発表(掲載)されるまでにどのようなプロセスをたどるのか、といったことはよく知らない。そこで、先日『論文を書くための科学の手順』(文一総合出版)を出版した山田俊弘氏に、「論文の世界」をご紹介いただいた。ほろ苦い科学者のキャリアパスが見えてきた。

ハゲタカジャーナルとは何か?

ここ数年、科学者仲間が集まると話題に上がるようになってきたのが“ハゲタカジャーナル”です。2018年には毎日新聞が、日本の主要大学に所属する科学者でさえもハゲタカジャーナルを利用していたことを暴く、驚くべき記事を1面トップで複数回掲載しました。

ハゲタカジャーナルとは何でしょうか? そもそも、科学業界で“ジャーナル”といえば、研究成果を報告する論文が掲載された学術専門誌を指します。つまり、科学者にとってジャーナルとは、日々の研究成果を公表する場(媒体)であり、とても重要な存在です。

そうすると、ハゲタカジャーナルとは、ハゲタカの分類や生態、生理などに関する研究成果をまとめた専門誌ということになりそうですが、そうではありません。ハゲタカジャーナルにはさまざまな定義がありえますが、私なりに定義すれば、

「掲載料と引き換えに、研究成果をさしたる審査をすることなく、“査読つき論文(=査読論文)”として発行してくれるジャーナル」

となります。

さて、ハゲタカジャーナルのどこがいけないのでしょうか? これを理解するためには、科学の進歩のしかたについて理解する必要があります。

【写真】掲載料と引き換えに、研究成果をさしたる審査をすることなく、“査読つき論文(=査読論文)”として発行してくれる
  ハゲタカジャーナルとは、掲載料と引き換えに、研究成果をさしたる審査をすることなく、“査読つき論文(=査読論文)”として発行してくれるジャーナルを指す photo by iStock

科学が進歩するためのシステム

科学は、過去の研究成果の上に新しい研究成果が積み上がることで進歩していきます。そうして積み上がったものが、体系的な科学知識となるのです。

科学を進歩させる、つまり既存の研究成果の上に新たな研究成果を積み上げるためには、1つひとつの研究成果が正しくなければなりません。仮に既存の研究成果が間違っていた場合には、どんなにがんばったとしても、その上に新しい研究成果が積み上がるわけがありません。研究の前提が誤っているのですから。

そこで、こうした無駄な努力を排除するしくみ、つまり誤った研究成果を排除するしくみが科学には必要となります。

科学業界が採用している、誤った研究成果を排除するしくみが、これから紹介する”査読論文“というシステムです。つまり、査読論文というシステムにより研究成果の正しさが担保され、科学体系全体の健全性が保たれているのです。

さて、ここまで説明すればもうわかっていただけたでしょう。ハゲタカジャーナルによる「審査をすることなしに査読論文として研究成果を発行する」という行為は、科学の健全性を根本から破壊する、きわめて悪質なものなのです。

しかし、依然として大きな謎がハゲタカジャーナルに横たわっています。ハゲタカジャーナルに金を払い、悪質なジャーナルの存続を許している者がいる、という謎です。

ハゲタカジャーナルから査読論文を買うのは科学者です。そして、科学者は誰よりも、査読論文を買ってはいけないことを理解しているはずです。そんなことをすれば、自分たちが最も大切にしている科学の健全性が損なわれてしまうのですから。

日本にもハゲタカジャーナル利用者がいることを、毎日新聞の記事は暴露しました。ハゲタカジャーナルは、自分があたかも普通のジャーナルかのように見せる、巧妙な“擬態”をすることが常です。ハゲタカジャーナルだとは知らずに投稿してしまったケースも少なくないでしょう。しかし、ハゲタカジャーナルだと知った上で利用した科学者もいたはずです。

この謎について考える前に、論文査読のしくみについて紹介しておきましょう。