では、そんな定保を突き動かしてきたものは何か。
定保は1984年、学習院大学経済学部を卒業後、入社。宴会部、セールス部、ロサンゼルス営業所、宿泊部、営業部国際課長、営業部長など主に営業畑を歩んできた。
定保の特徴はどんな職場でも常に情熱を持って、自分の頭で考え、自分の責任で行動してきたことだ。
仕事がうまくいかなかったときなどは、いったんは落ち込む。しかし、やがて自分の問題として反省の機会に置き換え、再び前を向いて行動する。
定保にそんな生き方ができたのは、子どもの頃から「帝国ホテルマンになりたい」という「夢」、「志」を持っていたからだ。
定保は幼い頃、航空会社に勤める父の赴任先ドイツ・ハンブルクで6年半過ごす。また、小学校3年から3年間、香港で生活を送る。
「家族で一時帰国した際に宿泊したのが帝国ホテル。落ち着いた照明と重厚感のある内装、ロビーに漂うどこか凛とした雰囲気は幼い私の脳裏にしっかり刻まれ、成長するにつれて、将来は帝国ホテルで働きたいと考えるようになっていきました」
同社への入社は夢が実現した瞬間だった。
次の夢は、同社の発展に尽くすホテルマンになることだ。熱意は会社へのロイヤルティ(愛社精神)の高さに比例する。
定保の情熱は、高いロイヤルティに基づくものだった。
定保の第2の特徴は常に、「自分は『運』がいい」と思える人間であること。人は誰しも同じような体験をして、同じような経験をする。
どのようなことであれ、それに対して「運がよい」と思える人が成功している。定保が言う。
「私は運がよかった。宴会部門を経験し、希望していたロサンゼルスにも行かせていただいた。また、宿泊部門では稼働率、客室単価をどう高め、いかに売上を最大化するかを決めるコントローラー(客室販売責任者)を経験することもできた。これらはすべて自分を鍛えるいいチャンスとなりました」
さらに見逃せないのは、定保は「経験するすべてが勉強」、「会う人、すべて勉強」と思える人間だということ。
それだけに学んだことは多い。例えば、宴会部の上司からは数字の管理は1つひとつ丁寧に行うことの大切さを、また、ある部長には上司に対しても主張すべきは主張し、筋を通すことの大切さを教わった。
さらに、ロサンゼルス時代には現地旅行代理店の女性社長の、礼儀正しく、丁寧できめ細かなサービスには胸を打たれた。そのサービスマインドは定保の理想となっている。
定保は今、〝世界最高のホテル〟づくりという、さらなる「夢」の実現に挑戦している。