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中国の芸能人が続々と「強い愛国心」を表明する裏事情

愛国は、生きるための手段か

「前向きのKY」にも例外が

以前あるTV番組で、日中ハーフの女優が中国人の性格について、「前向きのKY」と語っていた。つまり日本人のように周りの空気を読まずに自分の感情をストレートに言動に出すのだが、それはあくまでポジティブな方向だということだ。

確かに、中国人のコミュニケーションは、日本人のように自分がこう言ったら相手はこう受け取るだろうと、相手の反応を予め想定した上で言葉を選ぶということは比較的少なく、それゆえ自分の意思は遠慮せずストレートに伝えないと中国人には伝わらない。自分はこれまでも中国人との付き合いではそのようにしてきた。

だが、友人間の付き合いならともかく、政治的に敏感な問題ともなると、彼らもまた空気を読むのだ。

まして芸能人のような大衆の人気だけでなく、政治的な風向きを意識せざるを得ない中国のような特殊な環境ならば、雪崩を打って自らの政治的な正しさを表明しようとすることが、最近起きた複数の事件が物語っている。

最初に問題となったのは、台湾の映画コンクール、金馬賞での授賞式での騒動だった。

金馬賞は1962年に創設され、今回は55回目だったが、90年代後半からは中国本土からも作品が出展するようになり、台湾、香港を含めた中華圏を代表する映画祭となっていた。

17日の授賞式には俳優や監督が参加、出席した中国の著名な映画監督、張芸謀(チャン・イーモウ)は「これだけ多くの若い監督の作品(が集まったこと)は、中国映画の希望と未来を代表している」と語った。台湾メディアによると、この発言が台湾の観客の不満を生んだという。

そして、ドキュメンタリー賞を受賞した台湾の女性監督、傅楡がスピーチで「いつか我々の国が真に独立した存在としてみなされることが、一台湾人としての最大の願いだ」と発言、会場からは大きな拍手が起きた。

これに中国本土の参加者が反発、中国から参加したベテラン俳優、涂們は「中国台湾の金馬賞にプレゼンターとして再び来られたことはとても光栄だ。おなじみの顔ぶれ、さらに新しい友人とも知り合い、中台両岸が1つの家族であることを感じた」と発言、さらに最優秀男優賞を受賞した中国の俳優も、「ここは映画人の殿堂。あらゆる人が家族同様に集まり、中国映画がますます良くなっていくことを信じる」と、ことさらに「中国台湾」「両岸は1つの家族」を強調する発言をした。

 

芸能人が相次ぎ「1つの中国」表明

同じくプレゼンターとして招待された中国出身の女優、巩俐(コン・リー)は壇上に上がろうとしなかった。中国では授賞式をテレビ中継していたが、この騒動が起きるとすぐに中継をカットしたという。さらに中国側の出席者は授賞式後のディナーパーティーをボイコットした。

香港メディアの報道によると、台湾の文化部長(文化相)、鄭麗君は「台湾はアジアで最も自由、民主、多元、熱情の国だ。台湾の金馬賞はあらゆる映画人が作り出した映画芸術と創作の自由を尊重する国際的な賞だ。だがここは台湾であり、『中国台湾』でないことを覚えておいてほしい」と発言した。

映画祭終了後、中国のソーシャルメディア(SNS)、微博では芸能人らが次々と「中国一点都不能少」(中国はわずかたりとも欠けてはならない)というメッセージを発した。

これは、2016年7月、南シナ海の領有権問題をめぐる常設仲裁裁判所(オランダ)の訴訟で、中国がフィリピンに敗訴した際、中国共産主義青年団(共青団)が出したメッセージで、南シナ海の中国の領有権を示す「九段線」や、台湾が赤く塗りつぶされた地図が描かれている。

興味深かったのはこの中に、脱税問題で活動を自粛中の女優、范氷氷(ファン・ビンビン)も含まれていたことだ。

彼女は10月初め、脱税問題で9億元(約150億円)近い追徴課税や罰金を支払い、微博で謝罪して以降、一月半ぶりにこのメッセージを発したが、台湾メディアは、ファンはこの問題を使って自らのスキャンダルを「洗白」(ロンダリング)し、芸能界への復帰を狙ったのではないかと報じた。