「社内改革の抵抗勢力は無視せよ」カルロス・ゴーン氏の痛快な言葉

日産はどこからやり直せばよいか
辻野 晃一郎 プロフィール

ポジティブ思考こそが彼の真髄

帰国後に改めて実現した同氏との対談では、彼自身のビジネス信条や体験談を、ミシュラン時代、ルノー時代、日産に送り込まれてからのそれぞれのフェーズに分けて率直に語ってくれた。

印象的だったのは、「日産に初めて来た時には問題だらけだったので大きなpotential of progress(改善の余地)を感じた」と言っていたことだ。そのようなポジティブ思考こそが彼の真髄と感じた。

また、「社内改革において抵抗勢力にどう対応すべきか」と質問した時には「Just ignore them(ただ無視するのみ)」と迷いなく即答したのも痛快だった。

日産とソニーの協業の可能性についてもいろいろとアイデアを交換したが、それから少し経ってゴーン氏は短期間ながらソニーの社外取締役を務めることになる。しかしこの段階ではまだそのような想定はなかった。

別れ際に、「日産では立て直しのフェーズは終わった。これからは成長のフェーズに移行する」と力強く語っていたのを思い出す。

私が抱えるミッションや課題に真剣に耳を傾け、親身にアドバイスしてくれたゴーン氏は、合理主義者的な切れ味の鋭さとは裏腹に、気さくで温かな印象だった。傲慢なところや強欲なところは微塵も感じなかった。

この時の同氏との邂逅は、私の職務に対する覚悟を決め、モチベーションを奮い立たせる上での糧ともなった。

 

多くの論点

あれから17年余りの歳月が流れた。

ゴーン氏の逮捕も、「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」というジョン・アクトン卿の言葉を裏付ける事例のひとつにすぎないのだろうか。長きにわたる権力の座が彼をすっかり変えてしまったのか、もともと強欲で裏表のある人だったのかはもちろん私にもわからない。

今回の事件には論点が多い。

日産を私物化したゴーン氏の驚くべき悪行が次々に暴かれており、それらが事実だとすれば、今後きちんと裁かれねばならないのは当然である。しかし、今のところゴーン氏は容疑を否認しているようだ。

そして、そもそも会社経営とは何か、ということや、グローバル経営時代の企業統治のあり方、格差の問題などについても考えさせられる。世界的ベストセラー『21世紀の資本』で行き過ぎた資本主義について警鐘を鳴らした仏経済学者トマ・ピケティ氏は、本件について「ワンマン経営と青天井報酬の末路」とコメントしている。

また、ゴーン氏を長きにわたって日産の救世主ともてはやし神格化しておきながら、ひとたび逮捕となるととたんに有罪が確定したかのような叩き方をする多くのマスコミの報道姿勢についても違和感を禁じ得ない。

検察に関しても、財務省の公文書改ざん事件に対しては不自然なほど動きが鈍かったのに、この事件ではやけに張り切っているようにみえる。

さらに加えて、今回盛んに指摘されているが、日本で新たに導入された「司法取引」という手段の是非について、具体的な検証事例にもなるだろう。企業内部の権力闘争の道具として司法が利用されるようなリスクを回避できるのだろうか。