ネットを徘徊する怪物「差別的デマ」は、いま誰を餌食にしているのか

ネット右翼十五年史〈番外編〉
古谷 経衡 プロフィール

(3)手強い「沖縄デマ」「沖縄ヘイト」

「在日特権」の終焉から端境期としての「アイヌ特権」を経て、概ね2015年頃から頭をもたげ、現在ではすっかりネット右翼言説の主流となったのが、いわゆる「沖縄デマ」「沖縄ヘイト」に代表される、沖縄に於ける反在日米軍基地活動家や、前沖縄県知事・翁長雄志氏(故人)とその支持者に対する無根拠な中傷・デマである。

蛇足だが、ネット右翼がこのように資源を探して右往左往する様は、北進を断念し、代わって南進へと大きく転換した戦前の日本軍部にうり二つだ。

この「沖縄デマ」は、「在日特権」「アイヌ特権」というホップ・ステップを経て結実したネット右翼のブームの最前衛として花開き、一部に堅固な信奉者を生むに至っている。その主な要旨は次の通りである。


(1)翁長雄志氏は中国の工作員であり、その家族は中国で暮らしている
(2)沖縄には既に中国の工作員が多数潜伏している(中国による沖縄侵略)
(3)沖縄の高江ヘリパッド問題に関する反対派は中国人や韓国・朝鮮人である
(4)沖縄の辺野古移設問題に関する反対派は中国人や韓国・朝鮮人である
(5)前記(3)(4)の人員は日本共産党などから日当を受け取っている
(6)沖縄の在日米軍駐留に反対する者は全てパヨク(左翼)である
(7)玉城デニー氏は中国の工作員である(2018年県知事選後)

 

私は所謂「高江ヘリパッド問題」では、現地に何度も足を運び己の目で抗議運動の様子を見聞した。無論、「辺野古移設問題」に関しても、同様に現地での視察を行っている。その経験をもって言えば、沖縄に於ける在沖縄米軍反対派のなかに、中国人や韓国・朝鮮人を、ただの一度も見たことはない。ネット右翼のデマは、現地を訪問したり当事者に取材すれば虚偽であることが一目瞭然で分かるのが特徴だが、本件もその例に漏れない。

しかしこの「沖縄デマ」は、「在日特権」に代わって、いまやネット右翼界隈での「常識」とさえ言えるほどに定着した。それはネット右翼が思想的「宿主」とする「自称・保守系言論人」が、ネット番組やSNS、自称・保守系論壇誌で拡散する沖縄への差別的言説が要因として大であるが、そればかりではない。

2002年から概ね2013~2014年にかけて跳梁跋扈した「在日特権」は、「いくら探しても証拠も根拠も見つからない」のに比べて、「沖縄デマ」には、

(1)現実に沖縄に「米軍基地」という実態が存在する
(2)現実に沖縄県民の間では反米軍基地感情が旺盛である
(3)現実に沖縄県内に反米軍基地運動家が存在し活動している

という三点に於いて、「在日特権」よりも遙かに「攻撃対象」に実体が伴っているからである。

であるからこそ、妄想に過ぎなかったかつての「在日特権」が、第二次安倍内閣という本格保守政権の誕生によって希釈化されたのとひきかえに、ネット右翼の呪詛の標的として沖縄が浮上してきているのだ。

これに加えて、ネット右翼が「沖縄デマ」を強固に信ずるようになった要因として、

・沖縄出身・在住のネット右翼活動家が、在沖縄米軍へ親和的な立場を採る
・沖縄出身・在住のネット右翼活動家が、反基地活動家らに対する中傷・デマを恒常的に配信している

という点が挙げられる。「私は在日コリアンですが、在日特権を享受しており、これは不当だと思う」と名乗り出る者が一人も出てこず、当事者性に欠けていた「在日特権」に比べて、「沖縄デマ」には「私は沖縄生まれで沖縄育ちですが、在沖縄米軍は良き隣人であり、反対派はすべて反日勢力です」と吹聴する「当事者としての活動家」が続々と跳梁跋扈しているのである。

たとえその主張がいかに妄想と虚偽を含んでいたとしても、「沖縄デマ」にはそれを補強する沖縄の当事者が複数存在するということは、デマやフェイクニュースの成り立ちと流布の仕組みを考える上で特筆すべきことであろう。