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ネットを徘徊する怪物「差別的デマ」は、いま誰を餌食にしているのか

ネット右翼十五年史〈番外編〉

金魚、チューリップ、朝顔、フラフープ、カメレオン、シベリアンハスキー・・・。古今東西を問わず、人間社会には「ふっと出現し、ふっと消えゆく」ブームがある。それと同じように、ネット右翼の社会にも同じような「ブーム」が存在する。本稿は、2002年に出現したネット右翼が、「呪詛の対象」として前衛に置いてきたブームの変遷を振り返るものである。


(図は過去15年に於けるネット右翼「ブームの変遷」を示したもの、筆者作成)

(1)「在日特権」という虚構の誕生


2002年の日韓共催ワールドカップをその分水嶺として発生したネット右翼は、当初、ワールドカップ熱に煽られるマスメディアと列島の熱狂をみて、「既成のマスメディアと広告代理店(主に電通)が、在日韓国人・朝鮮人の悪事や悪イメージを糊塗する大々的キャンペーンに乗り出した」という妄想を仕立て、それと並行して「在日特権」という概念を「創作」した。

「在日特権」とは、読んで字のごとく、「特別永住者として日本に居住している在日コリアンが、国家から何らかの恩典を受けているに違いない」という妄想である。

 

この時期喧伝されたのは、具体的には「住宅費の減免または免除」「上下水道料金の減免または免除」「公務員就職への優遇や斡旋」「自治体からの冠婚葬祭費の補助」「そのほか税制面での優遇」など、広範に亘るものであった。

実のところ、この時期にネット上で自明のごとく言われた「在日特権」なるものは、シリーズ化され大ヒットした書籍『同和利権の真相』(宝島社、寺園敦史 (編), 一ノ宮 美成 (編), グループ・K21 (編) 2002年3月~)の中に登場する、近畿一帯で告発されたとされる所謂「同和利権」をそのまま「在日コリアン(在日コリアン)」に置き換えたもので、何の根拠も無いタダの妄想である(なお、本稿は「同和利権」言説の妥当性については関知しない)。

差別問題にリテラシーの無い、言い換えれば何の知識も免疫も無い首都圏のネット右翼は、この「同和利権」=「在日特権」のすり替えをそのまま信用し、根拠無き「在日特権」の妄想へと発展させた。

筆者の独自調査(2013年)によると、ネット右翼の実に70%弱が首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)に集中・偏重している。西日本の多くの地域では教育されている同和問題への無知が故に、それをネット上で換骨奪胎した「在日特権」言説に対しても、彼らネット右翼は免疫が一切無く鵜呑みにしたものと筆者は推量する。

結論から言えば、「在日特権」なるモノは、ただの妄想であった。その証拠に、この期間(2002年~概ね2014年)にかけて、「自身が在日コリアンであり、それが故に国から特権を受けている」と名乗り出る当事者は、ただの一人もいないのであった。

そして「嫌韓ヘイト本」を粗製濫造する出版界を中心にして、「在日特権」は在日コリアンの問題であったにもかかわらず、なぜか韓国本国への呪詛へと触手を伸ばし、所謂「嫌韓本」が隆盛する基礎をつくった。

とりわけ2009年に麻生太郎内閣が退陣して鳩山由紀夫内閣(民主党)に交代すると、この「在日特権」幻想はますます燃え上がる格好となった。鳩山・菅・野田の民主党三総理は「韓国の手先」と指弾され、なかでも菅直人は「カン・チョクト」と韓国風の名前で呼ばれるのが通例となった。菅直人の「帰化人説」が、公然と大手を振ってネット空間にまかり通った。

そして「朝鮮飲み」という、湯飲みの底に片手を当てて飲料を飲む仕草が「朝鮮半島由来の風習」として喧伝され、この仕草を行なった鳩山・菅・野田は、なんらか「朝鮮半島にルーツを持つ者」として、徹底的に糾弾されたのである。

無論、「朝鮮飲み」という風習は朝鮮半島にも存在しない。湯飲みの底に片手を当てて「ずずっ・・・」と飲み物をすするのは人類共通の普遍的な仕草であるが、ネット右翼は国会中継や予算委員会での民主党議員たちの所作に注目し、彼らを「帰化人」とか「朝鮮半島ルーツ」であるなどと決めつけ、呪詛の対象とした。今日では完全に否定されているネット右翼的陰謀論の典型であり、まったく病的な妄想である。

それにしてもなぜ、彼らネット右翼はこのような病的な妄想を以て、民主党議員を「在日認定」せねばならなかったのか。答えは簡単だ。彼らの信ずる「在日特権」なるものの存在が、いつまで経ってもまったく証明できなかったからである。

ネット右翼的な世界観によれば、韓国の手先たる民主党政権の成立は「在日特権」の確立と拡大を意味するものであったはずなのだが、そのような事態は待てど暮らせど出来せず、それどころか存在すら立証できなかったために、短絡的な妄想に飛びつくほかなかった。

しかし転換点は間もなくやってくる。2012年末の第二次安倍政権誕生である。