なぜ「高齢者の性」の話はタブーになったか…田原総一朗が辿る

高齢者の性を巡る旅⑥
田原 総一朗 プロフィール

セックスに対するタブーを緩和せよ

――私は、さっき、セックスは宗教に近い、と言いましたが、宗教は、神について怒るとか、論争するなんて事はないですよね。神を科学的に分析しようなんてことを言い出す人間は、世界中にいない。イエスキリストは復活したのだし、マリアはヴァージンで受胎したのですよね。宗教では、そのあたりのことを穿鑿するのはタブーなのですよ。宗教にはタブーがいっぱいある。

田原総一朗氏

私が、セックスは宗教に近いというのは、セックスも、なんだかんだと穿鑿するのはタブー視されているのではないですか。なぜ、女性の手や口のサービスで射精するのはOKなのに、本番はダメなのか。そのあたりを穿鑿するのはタブー視されているのではないですか。私は、とくに日本はセックスに対するタブー視が強いように思えるのですが。

「特に、日本がタブー視が強い、とはどういうことですか」

――たとえば、アダルトビデオ、そして週刊誌などの女性のヌード写真にしても、ノルウェーなどのヨーロッパの国々、そしてアメリカでは完全無修正なのに、日本では猥褻物として取り締まられます。

「欧米では、70年代以降に解禁していますよね」

 

――なぜ、日本ではダメなのですかね。日本はセックスにかかわることをタブーにしすぎているのではないですか。もしも、未成年に見せるのが問題ならば、25歳以上とか、30歳以上とか、年齢制限をすればよい。日本のセックスについてのタブーを緩和せよと、坂爪さんなどが提言すべきではないですか。

「確かに田原さんのおっしゃる通りかもしれません。高齢者の性の問題も、長らくタブーとされてきましたからね。実は私、ちょうど昨日渋谷で『高齢者の性』に関する研修を開催したんです」

――それは興味深い。どんな話をされたのですか。

「高齢者の性の歴史と現状を学んだうえで、これから介護福祉の現場でどのように対応していくべきか、ということを話したのです」

――歴史というのはどういうことですか。

「1947年は、日本人の平均寿命は、男性が50.6歳、女性が53.96歳で、この時代には、当然ながら高齢者の性の問題というのはありませんでした」

――いつ頃から問題になるのですか。

「1972年に、有吉佐和子さんが認知症高齢者の介護をテーマにした長編小説『恍惚の人』を発表して、ベストセラーになりました。その頃から老年期の性ということに焦点が当たるようになり、高齢者というのは枯れた存在ではなく、生々しい性欲と恋愛欲求を持っているのだという認識が徐々に広まり始めました」

――79年に大工原秀子さんが『老年期の性』という本を出して大きな話題になりましたね。どういう内容だったのですか。

「当時は、今以上に高齢者の性がタブー視されていたのですが、大工原さんは、大変な困難を乗り越えて、多くの男性・女性にに調査をして、高齢者は恋愛や性的欲求とは無縁だという神話を完全に覆したのです」

そして、坂爪氏は、1997年に、当時の厚生省が、高齢者が恋愛や性に無縁であるという考えを「老人神話」として否定した、と語った。

――厚生省が正式にですか。

「ええ、これは歴史的転換ですね。国が認めたのですから」

――なるほど、高齢者の恋愛や性的欲求を認めた。となると、妻が、あるいは夫が亡くなったり、離婚した高齢者たちの性の悩みを支援するには、どうすればよいのか。やはりセックスにかかわるタブーを思い切って緩和する必要があるのではないですか。

「それは、難しいけれども、たしかにこれからの大きな問題ですね」

坂爪氏は大きくうなずきながら語った。

なぜ日本ではこれほど性についての議論がタブー視されているのか。坂爪氏と話をしながら、しりたくなった。私は、厚労省や警察の担当官たちと、思い切って論争しようと考えた。

(続く)

今年10月に発売された、坂爪氏の最新著書

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