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ドイツと日本、超高齢大国が抱える「若者にカネが回らない」大問題

ベストな着地点は見つかるのか

「福祉国家ドイツ」の闇

ガブレエレ・Dは1960年代のはじめ、次女として生まれたが、母親の手ですぐに施設に預けられた。母親は、長女と三女を里子に、長男を養子に出し、四女は手元で育てた。つまり、5人の子供のうちの4人はいずこかの家庭で育ったが、ガブリエレだけが家庭はおろか、母親もろくに知らなかった。父親はしばしば刑務所に入っていた。

ところが、それから50年以上経った2016年、突然、ガブリエレの元に、母親の老人ホーム代の請求がきた。ドイツの法律は、子供に親の扶養を義務付けている。

自立できず、在宅でのヘルパーによる介護も機能しなくなった高齢者は老人ホームに引き取られるが、ドイツのホームは、たとえ教会など非営利団体が経営しているものでも、料金が非常に高い。日本の「特養」のように、お金のない人にとって有難い、公的な役目を果たしている老人ホームもほとんどない。安かろう、悪かろうという施設はあるが、それはたいてい民間経営のものだ。

いずれにしても、高齢者本人の年金は、たいていホームの支払いに追いつかない。しかも切り崩す財産もない場合、子供がいるとわかれば、当然のように、そちらにホーム代の請求が回ってくる。

ガブリエルの母親も、月々1800ユーロ(約23.4万円)の持ち出し分を自分では払えなかった。今年の7月のドイツの高級紙『フランクフルター・アルゲマイネ』の記事によると、目下のところ、老人ホームの入居者が支払っている月々の自己負担分の全国平均は1831ユーロだそうだ。つまり、ガブリエルの母親の老人ホームは、平均レベルのものと言える。

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そこでとりあえず福祉費が投入されたが、まもなくガブリエルを見つけ出した当局は、彼女に資産の開示を要求し、それに応じた金額として、月々785ユーロ(約10万2000円)を負担するよう命じた。

しかし、ガブリエレは支払いを拒否し、裁判に訴えた。その間にも、彼女が支払うべき額はどんどん増え、利子も含めて1万3000ユーロ(約169万円)にもなった。

 

そして、ようやく今年6月、「施設で育った子供は親の生活費を負担する必要がない」という判決が出た。ただ、州立裁判所がすぐに、この判決が妥当かどうか検討すると言い出しているので、判決はまだひっくり返る可能性もある。

司法が極めて慎重な理由は、この判決が判例になれば、全国の福祉予算に大きな影響を与える可能性があるからだ。これまではたいてい、子供時代に親に面倒を見てもらわなかったからといって、扶養義務を拒否して裁判に持ち込んでも、子供側が負けることの方が多かった。

介護にはすでに膨大なお金がかかっているし、これから自立できない高齢者がどんどん増えることは想定済みなので、費用はなるべく公金ではなく、家族に負担させたいという自治体の方針は明らかだ。

現在、この法律を変えようという声が強まってもいるが、ただ、そうなると、その財源をどこに持っていくかという問題が起こる。ドイツ人は、プライマリーバランスがプラスであることを誇りに思っている人たちなので、借金は嫌がる。

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