雇用改善の恩恵もナシ…国が放置する「中年フリーター」という大問題

もはやロスジェネはあきらめ始めた
小林 美希 プロフィール

ある日、自動販売機を見かけてふいに蹴り飛ばしたくなり、「あ、俺はどうかしている」と気づき、スタッフ全員に率直に聞いた。

「ここしばらく、僕の態度、どう思う?」

皆から、「元気がない」「怒りっぽくなった」と指摘され、診療内科にかかるとうつ病と診断された。この頃は上司からパワハラに遭い、自暴自棄になっていた。社長は味方してくれたが、半年もすると限界がきた。

これ以上働いたら死んでしまう――。武志さんはドラッグストアを退職した。

無職になった武志さんに対し、団塊世代の両親は「うつ病は病気ではない。なまけているだけだ」と理解してくれなかった。家にいても針のむしろ。両親から「気の持ちようで治る」などと攻め立てられるうち、気を失って救急搬送された。その後一週間くらいは記憶がない。

ドラッグストアを退職してから一年後、武志さんはなんとか再び働き始めたが、非正規雇用での転職が続いている。

国からも見放された世代

安倍晋三政権は「一億総活躍社会」「すべての女性が輝く社会づくり」「働き方改革」など、次々に労働問題に関するスローガンを掲げてきた。これほどまでに雇用政策が目白押しな政権はかつて例がない。

新卒市場では、景気の良い数字が聞こえてくる。

就職率(卒業生に占める就職者数の割合)を見ると、2017年3月の大学学部卒は76.1%、2018年3月は同77.1%となっている。これは、バブル崩壊前の水準近い数字だ(文部科学省「学校基本調査」)。

就職の「中身」を見ても、正社員が増えていることが分かる。文部科学省の同調査によれば、東日本大震災翌年の2012年3月卒では、「正規」の就職率は60.0%だったが、2017年3月卒は72.9%、2018年3月卒は74.1%と跳ね上がっている。

これらの数値が示す事実は明快だ。現在の労働市場において、新卒採用は空前の売り手市場なのである。

そうしたなかで、取り残されている重要な問題がある。就職氷河期に社会に出て、現在も非正規雇用で働く人々の存在だ。

35~54歳のうち、非正規雇用労働者として働く「中年フリーター」は約273万人に上り、同世代の10人に1人を占めている(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの尾畠未輝研究員の試算による)。この数字には既婚女性が含まれていないため、実際にはより大きいボリュームを占めると思われる。

就職氷河期世代には、ブラック企業に就職して心身を病んでしまい、退職するケースが珍しくない。その後は、非正規や無職となってキャリアが断絶され、そのまま中年フリーター」に至ってしまう。前述した武志さんも、その一人だった。