49歳で小説家デビュー「元・食堂のおばちゃん」が大好きな本

山口恵以子さんの「人生最高の10冊」
山口 恵以子

本だからこそ成立する仕掛け

ヴァルハラ最終指令』の主人公カール・リッター少佐は私がいちばんかっこいいと思う男です。

SSのエリート隊員の彼は、崩壊寸前の祖国のため、虚しい闘いに命をかけて滅んでいくのですが、そこに自己憐憫はなく、どんなときでも弱きを助けようという意志を失わない。その美学にやられました。

死の接吻』はストーリーの面白さから二度映画化されていますが、実は文章だからこそ成立するトリックがこの作品のキモなんです。

第一部は主人公の青年の視点から倒叙の形でストーリーが進んでいきます。ところが第二部になると、青年に殺された大富豪の娘ドロシイの姉エレン視点に移って、謎がどんどん深まっていく。そして第三部で明かされる真相。なるほどこの手があったのか!と膝を打ちました。

この面白さは映像では表現できません。映画を見ていたため犯人が分かっていたのが残念無念。

 

羊たちの沈黙』も先に映画を見てしまいましたが、映画も本もそれぞれに面白かった!

女性を殺して皮を剥ぐ猟奇的殺人犯を追うサスペンスですが、事件の組み立てがうまく、長編にもかかわらず、飽きさせません。そして、ハンニバルとクラリスという強烈なキャラクター。

この小説は一人の作家が一生に一度しか書けないレベルだと思いました。現にこの作品以降、トマス・ハリスの作品は精彩がありません。

単独でドラマの脚本を書くことを目指し、丸の内新聞事業協同組合の食堂で働きながら、ドラマのプロット作成の仕事を続けていたのですが、40代も半ばを過ぎたときに、見切りをつけました。

テレビは「今」を売りにするメディアですから、ドラマの脚本も若い書き手が求められます。一方小説は何歳になっても書ける。70歳を過ぎてデビューする作家もいます。小説を書こう!と決意しました。

私の『月下上海』は『天鵞絨物語』から発想を得ています。

身勝手な夫に苦しめられる主人公の品子が可哀相で、あの夫をぎゃふんと言わせるにはどうしたらいいかを考えているうちに、男を手玉に取ってのし上がっていく強い女の物語が生まれました。

漫画、脚本、小説と変遷はありましたが、面白い物語を求め、物語を創り出そうと努力してきた姿勢は、我ながら一貫していると思っています。(取材・文/緒形圭子)

▼最近読んだ一冊

「昭和12年に名古屋で開かれた博覧会を舞台に、華麗にして残酷な物語が展開します。ノスタルジーを喚起させつつ、現在の日本に当時との近似を見て警鐘を鳴らしてもいる。肌で当時の雰囲気を知る著者にしか書けない小説です」