「世界幸福度ランキング」「ダイバーシティ(社会の多様性)」「同一労働同一賃金」「ひとり当たりのGDP」「生産性」「国民負担率」「移民政策」「異文化との共生」……。
これらは、近年メディアを賑わせた北欧に関するトピックスです。
たとえば、「世界幸福度ランキング」は、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、アイスランドと4位まですべて北欧諸国で独占。9位のスウェーデンを含めると、10位までに北欧諸国が5ヵ国もランクインしています。ちなみに日本は54位です。
「ダイバーシティ」も、スウェーデン発祥の家具販売で知られるイケア日本法人が経済産業省の主催する関連賞を受賞。「女性管理職43%、世界21ヵ国の人材が勤務」している点が評価された結果で、また「同一労働同一賃金」を日本で初めて導入した同社の試みは、各方面から注目を集めました。
それでいて「ひとり当たりのGDP」や「生産性」も、北欧諸国ほぼすべてが世界でも上位にランキング。反面、所得に占める税などの「国民負担率」は5~6割(日本は約4割)と高く、「異文化との共生」を掲げて「移民政策」を推進してきたものの、ここへきて、移民受け入れの手厚い支援が財政を圧迫するなど、陰の部分も見過ごせなくなっています。
負担の重さというデメリットはあるにせよ、こうした北欧社会が成し遂げてきた豊かさに対しては、どの国の人も敬意を抱かずにはいられないと思うのですが、多くの人が知りたいのは、それを可能にしているのは、いったい何なのかということではないでしょうか。
北欧社会における豊かさの源泉は、彼らがリスクをとって世界中に出ていき、ビジネスを成功させていることにほかならないのですが、それを可能にしているのが、1000年前の祖先から連綿と伝わる「海賊」文化にあると言ったら驚かれるでしょうか。
ではその文化が具体的に、企業のマネジメントの現場においてはどういう特徴を持っているのでしょうか。
その答えを一言で言うなら、持ち前の「異文化適応能力」をフルに発揮していると言うことができます。
企業がグローバル化するかどうかにかかわらず、個人主義的な傾向が強まる一方の現代社会においては、自分とは異なる文化的な背景を持つ人と、いかにうまくつきあっていくかが大きな問題として問われるようになってきました。企業のマネジメント現場に限れば、マネージャーが考え方の異なるスタッフに対して「こうしろ」と一方的な指示命令を出すのではなく、スタッフとの信頼関係のもとに意思疎通を行い、共通の目標(ゴール)を一緒にめざしていける組織づくりが求められています。
そのためには、常に相手の立場に立って相手を尊重しながらも、自分たちの確たるやり方を持ち、それを根気よく伝えていく。能動的に動いてもらえるコミュニケーション手法が必要になってきます。このことは、日本だけに限らず、世界中に展開している欧米の巨大企業にとっても永遠の課題です。
その点、小さなボートで世界の海を縦横無尽に駆けめぐった海賊の気風を受け継ぐ彼らは、自分と文化的背景の異なる相手とつきあうための条件を備えていて、それこそが、現代でも、北欧社会の豊かさを根底から支えているものと言えるのです。
北欧とは対照的に、古来より大陸伝来の文化を取り入れることに、血道をあげてきた日本人。それを自分たちの文化と融合させることで、独自の文化をつくり上げてきた日本は、ここでいう「異文化適応能力」とは違った「異文化吸収能力」に長けていました。
それが戦後日本の繁栄を支えたひとつの要素だったのは間違いないのですが、グローバルスタンダードの嵐が吹き荒れるポスト冷戦以降の世界では、北欧人と比べると、明らかに「異文化適応能力」の面では遅れをとっていたように思います。