死ぬ直前に人間が体験する「虫の知らせ」と「お迎え現象」の正体

人には死を予知する力がある
木原 洋美 プロフィール

医師も認める「死を予知する力」

たとえばゾウは、死期が近づくと仲間のもとを離れ、「ゾウの墓場」で最期を迎えるという。有名な医学雑誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに紹介され、大変な話題になった「オスカー」という猫は、米国北東部のリハビリテーション介護施設で、患者の死期を感じとり、50人以上の死に立ち会ったと言われている。昔はカラスが屋根に群がっている家では、もうすぐ人が亡くなるなんていう迷信もあった。

ゾウの墓場は都市伝説の類であり、猫やカラスは、人間には分からない死の臭いを優れた嗅覚で感じ取っているだけ、という説もある。それはそうかもしれない。

だが、筆者が以前取材した医師(僧侶から医師に転身した)は次のように語っていた。

「私が属していた宗派では、悟りを開いた僧侶は、自分の死期を察知できるようになると聞いたことがあります。病気ではなく、事故などによる突然死であってもです」

この医師が出会った患者のなかには、自分が死にたいと思った時に、きっちり亡くなった人もいたという。

「その患者さんは、『誰にも看取られずに独りぼっちで逝きたい』と常々おっしゃっていました。独自の哲学をお持ちだったのです。それは看護体制が整っている病院ではなかなか難しいことですが、患者さんは面会の家族が帰って、看護師と私が一瞬病室を空けた隙に、臨終されました。死に顔は非常に安らかで、私には、患者さんがその瞬間を逃さずに亡くなったとしか思えませんでした」

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在宅介護の4割が「お迎えあり」

それにしてもなぜ、このような能力が備わる必要があったのだろう。
人間に限っていえば、「死への心構え」「死に対する恐怖を和らげるため」というのがあるように思う。

たとえば医療や介護の現場では「お迎え現象」がよく知られている。お迎え現象とは、死の間際に亡くなった人々が枕元に立ち、あの世への道案内をしてくれるというもの。2008年には、医師と社会学者らによる学術的な研究調査の論文が公表され、話題になった。

 

調査の中心人物は、宮城県で在宅ケアの医療法人「爽秋会」を主宰していた医師の岡部健氏(2012年にがんで死去)だ。

ある時、岡部氏は死期が近づくと、多くの患者が「お迎えが来た」と話すことに気がついた。そして、そうした人々の多くが死の恐怖が和らぎ、穏やかに旅立っていることに注目し、2007年、仲間の医師や母校の東北大学の社会学者らと一緒に、これまで看取った700人近くの患者の遺族に「(亡くなった)患者が、他人には見えない人の存在や風景について語ったり、感じていたりした様子はなかったか」を尋ねる、アンケート調査を行ったのだ。

すると、366人の遺族から回答が寄せられ、そのうちの42.3%が「亡くなる前に『お迎え現象』があった」と答えたという。

さらに、お迎え現象が起こるのは「自宅」が87.1%で圧倒的に多く、「病院は」わずか5.2%。亡くなる数日前が一番多く43.9%で、ほとんどの人はお迎えが来てから1~2週間以内に旅立っていた。

興味深いのは患者の反応で、お迎えが来ても「怖い」と思った人は少なかったようで、お迎え後の故人の様子を尋ねると、「普段どおりだった」「落ち着いたようだった」「安心したようだった」などの肯定的な回答が45.8%。「不安そうだった」「悲しそうだった」などの否定的な回答36.8%を上回っていた。

また、お迎えに来た相手は、「亡くなっている家族や友人」が52.9%と多く、飼っていたイヌやネコが現れるケースもあった。そして、お迎えが来た人の約9割が穏やかに旅立っていた。