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この手術、受けて本当に良かったのか...と患者が思った瞬間

答えはなかなか見出しにくいから

手術後の人生を想像して

痛みを取ることを優先するか、それとも自分の足で歩くことを選ぶか。『「先生が患者ならどうします?」』の著書がある新潟大学名誉教授の岡田正彦氏は、こんなケースを目の当たりにして考え込んだことがある。

「以前、『膝が痛くて、たまりません。手術を受けたいので先生を紹介してください』と言う高齢女性がいて、紹介したことがありました。手術を受けて半年ほどした時、私のところに来られたのですが、車椅子になっていました。

手術を受けるまでは、膝が痛くても歩けていたんですよ。私は、自力で歩いていた人が車椅子生活になって、手術は本当によかったのだろうかと悩みました。

私が同じ立場なら、痛みを我慢してでも歩きたいと思う。しかし、彼女は歩くことを諦めてでも、痛みを取ることを優先したのかもしれません。人の価値観はそれぞれで、手術すべきか否かは単純に言い切れる話ではありません。

ただし、一つだけ言えることは、手術を受けた後に自分が何を期待しているのか、患者自身が自分で調べ、考える努力を怠らないことです」

 

ヘルニアや脊柱管狭窄症でも、安易に手術を受けると症状を悪化させることがある。在宅医療専門のホームオン・クリニックつくば院長の平野国美氏がこう話す。

「これらの患者さんは、手術を受けたら痛みから解放されるとか、普通に歩けるようになるという思いが強いものです。ところが、手術はやってみなくてはわかりません。

特に、頸椎症性脊髄症と、体の筋肉が徐々に落ちていくALS(筋萎縮性側索硬化症)は初期症状が似ているため、誤診されることが多くあります。

手術をしてみたけれど、症状がどんどん悪化していくため、再度確認したところ、ALSだったというケースは私も数例見ています」

医者に勧められた手術を受けて、その結果、事前にまったく予想していなかった後遺症を抱えた例を紹介する。話すのは、夫が狭心症の発作に見舞われた60代女性だ。

「主人は今、70歳。2年前、息切れがひどくなり、駅で階段を登るのもつらそうになりました。ある日の夜中に『呼吸が苦しい』と言い出し、救急車に来てもらったんです。

病院に着いた頃にはほとんど落ち着いて、『もう大丈夫だ』と言える状態になりました。それでもいろいろな検査をして、翌朝、医者が下した診断は『狭心症』でした」

夫妻は、決断を迫られた。動脈硬化で血管が狭くなっているので、カテーテル治療を施して、動脈にステントを入れて拡張させる手術をするよう医者が勧めてきた。

「軽度だと言っていたのにステントだなんて、怖いなと感じたんです。でも、『(ステントは)内科医の行う治療。外科手術のように大がかりなものではない』と言うので、お任せすることにしました。入院は1週間ほどでした。

翌日に退院という時になって、夜中、病院から『ご主人が脳梗塞を起こしました』という連絡が。タクシーに乗って駆けつけると、歩行に乱れがあり、ろれつも回らない。

当直の看護師さんは、『カテーテル治療によって血栓が飛び、脳梗塞を起こすことがあるのです』と言う。それから2週間、歩行、手の機能のリハビリをして退院しました。

それ以来、主人は話がもつれるし、歩行もヨタヨタ。好きだった釣りの道具の整理など、細かい作業ができなくなってしまいました。誰が見てもステント治療の後遺症です。

あの『手術』は本当に必要だったのか。適切なものだったのか、その疑問を拭い去ることができません」

もちろん、治療を受けなければ病気で命を落とした可能性もあるし、どんな治療にもリスクはある。しかし、治療・手術前に後遺症や副作用を知っているのといないのでは、大きな違いがある。