国税vs新富裕層「新たな闘い」~新制度もすり抜ける海外資産

もはや「抜け道」はないはずだったが…
清武 英利 プロフィール

海外口座も捕捉

仮想通貨取引のもう一つの特徴は、取引所を自由に変えて口座を開設できることだ。仮想通貨は電子データ上を――――つまり国境を越えて――――流れていく。一部のコイン投資家にとって、それが節税策のもう一つの抜け道になっている。

「だからシンガポールであれば、まずそこへ体を移し、日本の税制から外れます。183日が過ぎたところで、その仮想通貨を日本からシンガポールの取引所に移す。

それだけ待つのは、一年の半分以上を外国で住んだという証拠になり、日本の『非居住者』と認められる可能性が高くなるためです」(前出のベテランバンカー)

ある若者は日本から住民票を抜き、シンガポールに住み始めて6ヵ月過ぎたところで、仮想通貨を全部シンガポールに移した。いつ売っても、そのキャピタルゲインに対する課税はゼロだという。ところが、移住した後も仮想通貨を売らない者もいた。

「なぜですか」と尋ねたら、「さらに値上がりすると思っている」と答え、バンカーをさらに驚かせた。

ドイツの哲学者・ショーペンハウアーは〈富は海水に似ている。飲めば飲むほどますます喉が渇いてくる〉という言葉を残したが、儲ければ儲けるほど欲が出るのが、にわか資産家らしい。

Photo by iStock

他にも、コイン投資家から寄せられる相談があるという。

「日本に住んだまま、シンガポールか香港のプライベートバンクに口座を開設したい。それで当地の仮想通貨取引所に移して売ったコインの利益を、その口座に入れたら税務申告しないでも済むのではないか?」

これは脱税行為である。こうした依頼者は、国税庁が「国際戦略トータルプラン」という名の海外資産逃れ対策を次々と講じ、OECD租税委員会が主導する「自動的(税務)情報交換制度(CRS)」が本格稼働したことを知らないのである。

'18年9月末に、資産家や非上場企業が海外に持つ金融口座が、64ヵ国・地域の税務当局を通じて、国税庁の「国税総合管理(KSK)システム」に入力された。その数は55万705件に上った。

この自動的情報交換制度は、日、英、独、仏、シンガポールなど加盟102ヵ国・地域の税務当局が、自国に住む非居住者の金融口座情報を相互に交換し合って、海外の隠匿口座や資金を追及することを狙っている。

 

シンガポールを例に取れば、日本の居住者がシンガポールの金融機関に置いた預金、証券口座の保有者氏名、口座残高、利子・配当年間受け取り総額などが、'18年からシンガポールの内国歳入庁を通じて日本の国税庁に年1回、自動的に入る。その1回目の情報交換が9月末だったわけだ。

実施国にはスイス、香港、ケイマン諸島、英領バージン諸島などタックスヘイブンも含まれている。

日本人がカリブ海の島にペーパーカンパニーを作っていても、どこかの国の銀行に金融口座預金を置かざるを得ない。その情報が自動的に交換され、それをもとに国税当局が追及する時代になったのである。

「世界中の膨大な秘匿情報が、ともかくザルに入った」と国税庁は言う。問題はそのザルの目が粗いのか細かいのか(入手した約55万件の口座数は、「実数より少なすぎる」という声もある)。

あるいはザルの中のビッグデータを国税当局がどう取り出せるのか、という点にかかっている。

編集部からのお知らせ!

関連記事

ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/