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国税vs新富裕層「新たな闘い」~新制度もすり抜ける海外資産

もはや「抜け道」はないはずだったが…

大金持ちたちは、タックスヘイブンの国を使い、巧妙な資産隠しに精を出してきた。だが「自動的情報交換制度」で、それも困難になる――――と思いきや、国税と彼らの闘いは、新たな局面を迎えている。

金持ちに起きた異変

「富裕層の傭兵」と呼ばれ、一部の資産家に奉仕してきたプライベートバンカーたちが、これまでにない依頼を次々と受けている。それも、FacebookやLinkedInというSNSを通じて、国内のごく普通の人々から突然、こんなアクセスが入る。

「スポーツくじ『BIG』で大当たりした。どう運用したらいいのか、教えてください」

5億円以上のカネが転がり込んできたという。「宝くじやロト6で思いもかけないカネが入ったのだが、どうすればいいのかわからない」というアクセスを、同業者も立て続けに受けた。

新たな依頼者たちには、海外で運用メリットを享受したいという願望がある。ただし、ベテランのバンカーはすぐには飛びつかない。不正な資金を、プライベートバンクを利用して運用したり、洗浄したりする輩がいるからである。

かつては、住専マネーやヤクザの犯罪収益をスイスや香港、シンガポールに逃避させた例もあった。マネーロンダリングである。

「出所不明のお金は扱えません」

「いや、本当にくじで当たったんです」といったやり取りがあって、バンカーが実際に会ってみた。

そこで詳しく事情を聞き、〝証拠〟を見せてもらって得心した。「日本で税金を一応払ってオープンな形で海外口座を開きたい」という。

プライベートバンカーの従来の顧客といえば、代々の資産家や実業家、地方の名士のほか、IT・土地長者、不動産・パチンコ業者、タレントなどが多く、巨額の絵画やゴルフ場、庭園付きの海外不動産を買い付けたという話もよくあったし、タックスヘイブンに「shell company(抜け殻会社)」を作って、その運用口座を香港やシンガポールに置きたい、という需要も多かった。

それがいま、客層や活用目的に異変が起きている。バンカーたちは、SNSを通じて飛んでくる依頼に、業界の敷居がかなり低くなったのではないか、という思いを抱いたという。

こうした異変をメガバンクでは、「資産家やバンカーのコモディティ(大衆)化」と呼んで、対応を急いでいる。

「かつては剣先のような、一部の方々しか扱っていなかった我々の業務範囲が広がり、お客さんに合わせてどんどん降りていくイメージです」と担当幹部は語る。

 

他にも、バンカーたちを驚かせた依頼がある。東京都内で働く外資系のバンカーは最近、「仮想通貨取引で手持ちのコインが(時価)20億円に暴騰したので、海外に移住して、上手く節税したい」という相談を受けた。

依頼者は若者である。別のバンカーには、こんな依頼があった。税逃れを念頭に置いた相談である。

「数千万円を投資した仮想通貨が25倍近くになった。利益を確定させる前にシンガポールで運用したい」

'09年に誕生した仮想通貨は、最初に開発されたビットコインの草創期から、わずか10年弱で2000種類も存在する時代に入った。

スマートフォンの普及を背景に、取引市場は世界中で拡大の一途をたどり、コイン長者も続々と生まれている。コンビニを覗けば、そこに仮想通貨専門の月刊誌が売られている。

一方では、業者の破綻リスクや投資者保護策の欠落が指摘されているのだが、金融機関を通さずに送金や貯蓄が簡単にできる利便性と、超低金利時代に一攫千金が狙える投機性が若者や投資家を魅了しているのだ。