# 老人ホーム

何を失い、何を得るのか…老人ホームに「入れる・入る」決断を考える

早く決めねば手遅れになる
週刊現代 プロフィール

親の看取りが済めば、やがて自分自身が「入る」決断を迫られる。

今年6月、田嶋駿介氏(75歳・仮名)は、子どもの負担を考え、夫婦2人で兵庫県の有料老人ホームに自ら入った。

「家を捨てるのが、嫌で仕方なかった。でも、息子も嫁の実家の世話があるし、家も離れている。仕事もあるからこっちに戻れとは言えないからね。

自宅の土地を売ったお金で、有料老人ホームに入った。初期費用が1000万円、月額利用料が30万円、さらに食費や雑費がかかる。貯金もほとんどないから、賭けだった」

 

自ら進んで入ったが…

ホームでは、夫婦部屋だ。窓からは海が見渡せ、景色もよかったが、20平米足らずの2人部屋は窮屈だった。田嶋氏が語る。

「持ち込めた荷物はたんす2つ分だけ。位牌や仏壇と着替え、家族のアルバム、少しの本と映画のDVD、妻は趣味の手芸の道具くらい……。これが終の棲家かと思うと泣きたくなったよ。思い出の残る2人の荷物を処分するのは想像以上にしんどかった」

施設の居心地は悪くなかった。いくつもある共有スペースでは、読書やビリヤード、陶芸に絵画、園芸までも楽しめる。花見や遠足などのアクティビティも充実していた。

Photo by iStock

「でも、しょせんは老人向け。話の合う人など一人もいない。挨拶はするが、それだけの仲や。妻は最初の頃は友達作りに頑張っていたが、途中で音を上げた」(同)

今は、施設のバスで最寄り駅まで行き、喫茶店で時間を潰すことが日課になったのだという。

「部屋にいると、だらだらテレビを見て、酒に手が伸びてしまう。このままではアル中まっしぐらや。こそこそ飲む酒なんて楽しくない」(同)

ただし、田嶋氏の場合は、夫婦仲は円満だからこそ、やっていけるという。夫婦で入居しても、実質的に「熟年離婚」しているケースも多いのだ。

「自分は2階フロアにして、夫は1階フロアにしてくれと要望した奥さんがいました。

苦労をかけられたから、入居してまで一緒に生活したくないと言うんですね。ご主人のほうは立ち直れないほどのショックを受けていました」(前出・山川氏)

多くの人にとっては、一度きりの決断だ。後悔しないためにも、「入れる」「入る」の考え方は、親子、そして夫婦で丁寧に話し合っておきたい。

「週刊現代」2018年11月17日号より