# 老人ホーム

何を失い、何を得るのか…老人ホームに「入れる・入る」決断を考える

早く決めねば手遅れになる
週刊現代 プロフィール

「介護ぷらす」代表の山川仁氏はこう語る。

「親を施設に入れる決断ができず、先延ばしにしているうちに、介護疲れで家族が倒れてしまうケースは多い。ポイントは、本人が嫌がったとしても、入居を勧める覚悟が、家族にあるかどうかです」

 

「先送り」で事態は悪化する

だが、勧め方を誤れば、事態はいっそう悪化する。

今年3月、大阪市在住の谷田宏治氏(59歳・仮名)は、一人暮らしの母(81歳)を老人ホームに入れた。

「母は、2年前に腰の手術を受け、歩行できなくなり車椅子生活になりました。もう一人暮らしは無理だろうと、ケースワーカーに相談したところ、隣の市の老人ホームを紹介されました。

しかし、母は『自宅で死にたい』が口癖で、ホーム入りを嫌がりました。そこで、『体調が回復するまでの辛抱だから、よくなればすぐに家に戻れるから』となんとか説得して、入所させました」(谷田氏)

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母の入った介護付きホームは新しかった。入居一時金はなく、食費込みで毎月14万円程度の利用料は、良心的に見えた。だが、トイレ付き約6畳の部屋は、ベッドを置けば、狭く感じられた。

「友人もできたのですが、そのうち、『(他の入所者の女性に)酷いことを言われた』と母が怒り出して、誰とも口も利かなくなった。

また、隣の部屋のおじいさんが、耳が遠いのか、朝から深夜まで大きな音量でテレビをつけっ放しにしている。そういうことが積み重なり、施設が嫌になっていったようです」(谷田氏)

そして、入居からわずか1ヵ月後、母は行動に出た。施設近くに住む知人に頼み「こんなところ出て行く。連れて帰って!」と懇願し、着の身着のまま、車で実家に戻ってきてしまった。

谷田氏は、「せっかく入ってもらうチャンスだったのに、これで母が頑なになってしまった」と悔やんでいる。今はホームヘルパーに週2度来てもらっているが、谷田氏は、不安で仕方がないと言う。最近、母に認知症の症状が出始めているからだ。

しかし、問題を先送りにすればするほど、事態は悪化する。高齢者住宅アドバイザーの岡本弘子氏が語る。

「認知症が進むほど、何が何でも自宅にいるという願望が強くなります。不安症状が強くなり、知らないところに連れて行かれるという不安から、拒否行動に出てしまう」