負けを承知でAIに挑む気か…ここがおかしい「大学の国語入試改革」

伊藤 氏貴 プロフィール

記述式設問の難しさ――〈記述式〉の問題

そもそも、「共通一次」や「センター試験」で記述式設問がなかったのは、50万人ほどの受験生の解答を公平に採点することが不可能だったからだ。より深く受験生の力を測るには、マーク式より記述式の方が適していることは言うまでもない。ただ、どうしても記述式の採点に際しては、ムラができやすい。

その問題を克服すべく、「共通テスト」では設問と採点に非常に工夫が凝らされている。たとえば今回のプレテストの第1問、問2は設問に次の図が示され、空欄に当てはまる内容を記述させるものである。

【初期の指差しと言語習得】
ある単語を耳にする
     ↓
子どもは無数の候補の中から適切な一つを選ぶ必要が生じる。
しかも大人は
・            ・
     ↓
だから子どもは積極的に指差しをする。

たしかにこうすれば、かなり解答の方向は限定できる。しかし、これは本文の一部の流れを示しているだけで、実際に本文のある一部をほぼ抜き出すだけで正解になってしまう。

示された正答例を見ても、本文の表現をどこまで抽象化して言い換えるかの基準はなく、ともかく解答根拠になる箇所を「検索」できればよいことになっている。せめて具体例を抜き出しただけの解答は減点すべきではないか。

一方、問3は120字というかなり長い記述で、こうなると受験生によってかなり色々な書き方が出てきてしまうことが予想されるが、それを徹底的に抑えるために、設問の後に次のような条件が付されている。

(1) 二つの文に分けて、全体を八十字以上、百二十字以内で書くこと(句読点を含む)。

(2) 一文目は、「話し手が地図上の地点を指さす」行為が「指さされたものが、話し手が示したいものと同一視できないケース」であることを、【資料】に示されたメニューの例に当てはめて書くこと。

(3) 二文目は、聞き手が「話し手が示したいもの」を理解できる理由について書くこと。ただし、話し手と聞き手が地図の読み方について共通の理解をもっているという前提は書かなくてよい。

(4) 二文目は、「それが理解できるのは」で書き始め、「からである。」という文末で結ぶこと。

設問そのものではなく、あくまでそこに付された注意書きである。この問3は設問とそれを解くために必要な資料、注意書きとで丸々1ページ、2000字近くを本文とは別に読む必要があり、とにかく情報処理の素早さが求められる

この目まいがするほど細かな条件によって、たしかに解答の内容はかなり限定できることにはなる。しかし、採点のためにこのような細かい指示で解答をがんじがらめにすることは、記述式の設問が本来目指していた方向とは違うのではないか。

たとえば、(2)の「メニューの例に当てはめて」という指示は、非常にあいまいである。示された3つの正答例には「メニュー」そのものに言及したものは一つもないが、「例に当てはめて」と要求されたときに、「例」との関係がどうなっているかを一切書かなくてよい、と受験生がその場で判断できるだろうか。私なら「メニューの場合は〇〇であるように」などと明示しなければならないと思ってしまう。

解答の条件を細かく指示することで、受験生には負担が増えるばかりでなく、逆にあいまいな点も出てきてしまうということだ。

 

無意味な解答が満点に?

すべては採点を効率的に行うためなのだが、公平を期すためにここまで厳密化しても、それをすり抜けるような解答というのは出てきてしまうものだ。

たとえば第1問の問1は「指差しが魔法のような力を発揮する」とはどういうことか、という設問だが、正答の内容の条件として、「ことばを用いない、または、指さしによるということが書かれていること」と「コミュニケーションがとれる、または、相手に注意を向けさせるということが書かれていること」が挙げられている。

すると、2つの条件のそれぞれ後者と前者とをとって、「指さしによって、相手に注意を向けさせること」という解答は満点ということになるが、これははたして正解と言えるだろうか。ちょっと考えてもらいたい。「指さしによって、相手に注意を向けさせる」ことは「魔法のような力」と言えるのだろうか、ということだ。「魔法」どころか、修業せずとも魔法の杖がなくとも誰もが毎日当たり前にやっていることではないのか。

正答例として挙げられている、「ことばを用いなくても意思が伝達できること」や「指さしによって相手に頼んだり尋ねたりできること」ならまだ「魔法」のニュアンスを読み取ることができる。しかし、「正答の条件」を満たしさえすればよいというのであれば、「指さしによって、相手に注意を向けさせること」でも満点になってしまうのである。

しかもこの解答の前半は、傍線部の「指差しが」とまったく同内容で、要は「魔法のような力」を「相手に注意を向けさせる」と言いかえただけなのだ。これが意味のある解答と言えるだろうか。傍線部に「指さしが」とあるのに、採点基準によれば、解答に「指さしによる」とあれば得点させてしまうというのである。

これもまた、AI的な読み方の問題だということになる。たしかに、本文内のどの表現が傍線部と対応するかということだけを考えれば、正答の条件を満たすことはできる。しかしそれでは、本来筆者が「魔法のような力」という表現に込めた思いを汲み取ることはできていないのである。言いかえれば、AI的検索読解では、筆者がある表現を用いた理由、意図までは読み取ることができないのだ。

本来、記述式の設問を採用するならば、こうした筆者の意図を深く汲む問題こそがふさわしいはずだが、結果的に今回のプレテストではその部分をばっさり切り落としてしまっている。繰り返しになるが、これは公平さを目指すあまり、本文中のあるポイントが拾えていれば加点するという単純な採点方法しか取れないためだ。

立ち消えになったようだが、一時、記述式設問の採点をAIに委ねようと模索していたらしい。この正答条件ならばあるいはAIでも採点可能なのではないかと思われるが、逆に言えば、AIでも読解可能な文章レベルしか問わない設問だということになる。