アイリスオーヤマが「革命的価格」でテレビを販売できる舞台裏

なぜ他の家電メーカーにはできないのか
加谷 珪一 プロフィール

高度成長期にはうまく機能したが…

こうした時代において、高付加価値を前提にした製品戦略や価格戦略はうまく機能しないことが多い。ところが日本の大手電機メーカー各社は時代に合った価格戦略に移行できていない。

大手電機メーカーの基本戦略はフルラインナップである。低価格から高価格のものまで、すべての製品群を揃え、価格が高くなるほど豊富な機能を搭載している。

各社が、このような製品戦略、価格戦略を採用しているのは、高い単価で製品を販売したいからである。消費者はできるだけ安い製品を買いたいが、安い製品には欲しい機能がほとんどない。一方、欲しい機能が入っている製品は価格が高く、自分にとっては不要な機能も含まれている。だが安い製品では、十分にニーズを満たすことができないので、消費者は渋々高い製品を購入する。

これは飲食店の「松竹梅」でも同じことが言える。梅を頼むとあまりにも内容が乏しいが、竹は結構高い。消費者は迷うが、結局は多少高くても竹を選択する。

こうした価格戦略は、消費者の所得拡大が続く高度成長期にはうまく機能した。高い買い物だと思っても、翌年のボーナスが増えれば、それも忘れてしまう。フルラインナップの製品戦略、価格戦略は、常に需要が存在している市場環境でこそ機能するものといってよい。

だが需要過多な状況というのは、実はそうそうあるものではない。日本メーカーは、所得が増え続けるという「特殊」な環境に慣れきってしまい、需要過多を前提にした製品戦略から脱却できていない。一方、消費者の経済状況は大きく悪化しており、高い製品には簡単に手が出せなくなっている。

 

価格が高いうちに売り切る戦略

メーカー各社は市場の変化に対応し、製品戦略を変えればよかったが、現状維持を優先し、そのような決断は行わなかった。大手メーカー各社が採用したのは、量販店とタッグを組んだ、短期の販売戦略である。

白物家電やAV機器はパソコンとは異なり、技術革新のペースが遅く、翌年になるとスペック的に使いモノにならなくなるということはない。したがってモデルチェンジは数年に一度でも大きな問題は生じないはずである。ところがメーカー各社は、白物家電であっても毎年モデルチェンジを行い、発売当初はかなり強気な価格設定を行う。

量販店などに対しては、発売直後に多額の販売奨励金を支払うので、量販店は発売直後の高価格な製品ばかり売ろうとする。こうした無理な価格設定を行えば、当然、時間が経過すると製品は激しい値崩れを起こす。実際、各種製品の店頭販売価格の推移を見てみると、発売時から半年経過すると価格が半分になってしまうケースも多い。

そこで各メーカーは、スペック的には何も変わっていないにもかかわらず、型番だけを変えた新モデルを投入し、値崩れしないうちに売り切ろうとする。白物家電は、製品のスペックが安定していて変化に乏しいという現実を考えると、一種の異常事態であり、市場が歪んでいる証拠だ。