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ミシェル・オバマ夫人が、トランプを倒す「最終兵器」となる現実味

初版300万部「怒りの回顧録」の中身

「絶対に許さない」

バラク・オバマ前米大統領夫人、ミシェル・オバマさんによる回顧録『BECOMING』が、11月13日に世界同時発売されました。初版は300万部で、31カ国で翻訳されるとのこと。日本での刊行はまだ決まっていませんが、筆者はさっそく同書を入手しました。

プリンストン大学を優れた成績で卒業し、ハーバード法科大学院を経て法律事務所でバラク・オバマ氏と知り合ったミシェル夫人。優秀な弁護士であるとともに、ユーモアに富み、2人の娘を産み育てた家族思いの女性として知られています。

ミシェル夫人の有名なフレーズといえば、2016年の民主党大会で行なったスピーチの「相手が無礼でも、私たちは誇り高く(when they go low, we go high)」。しかし今回、彼女が刊行した回顧録を一読した印象は、少なくとも政治とトランプ政権に関する部分については「怒りに満ちている」というものでした。きわめて強い言葉で、トランプ大統領を直接的に批判しているのです。

とりわけ印象的なのは、「彼を絶対に許さない(I’d never forgive him)」という言葉です。第22章で、彼女はトランプ大統領(当時はテレビのリアリティ・ショーなどのホストというイメージが強いころでした)がオバマ大統領の出自について、無根拠な発言を始めた2011年前後のことをこのように語っています。

〈2011年の冬の間に、私たちはリアリティ・ショーの司会者でニューヨークの不動産業者のドナルド・トランプが、バラクの再選がかかった2012年の大統領選で、共和党の候補者に立候補するかもしれない、と言い始めたとの知らせを耳にした。ただ、彼の言動の大半は、番組を盛り上げるためにバラクの政策決定について稚拙な批判をし、また彼がアメリカ国民か否かを問いかける、というようなものだった。

いわゆる『出生論者(注:birther、オバマ氏の出生の疑惑を信じる人々のこと)』たちは前回(2008年)の大統領選挙で、『バラクのハワイ生まれの出生証明書はとにかくでっち上げであり、実際はケニア生まれなのだ』という陰謀論を広めようとしていた。トランプはその話を蒸し返そうと気炎をあげ、テレビで『1961年のホノルルの地元紙によると、バラクの出生は偽りであり、幼稚園の同級生は誰も奴のことを覚えていない』という異様な主張を繰り広げるようになっていった。その間、視聴率やクリック数競争に明け暮れる報道機関は――とりわけ保守的なものは――トランプの無根拠な主張に喜び勇んで栄養分を送り込むのだった。

全てが馬鹿げていて、悪意に満ちていることはもちろん、その背後にひどい偏見やゼノフォビア(外国人・外来のものに対する嫌悪)があることは隠しようもなかった。しかしまた、危険なことに彼には、過激思想の持ち主や変人たちをわざと煽り立てる意図があったのだ。

私は反響を恐れた。(中略)心配しないようにしようとしたのだが、どうしようもない時もあった。精神的に不安定な人が、弾を込めた銃を持ってワシントンへやってきたら? その人がうちの娘たちを捜し回ったら? ドナルド・トランプは、その騒々しく無思慮な当てつけによって、私の家族を危険にさらしたのだ。

このことに関して、私は絶対に彼を許さない〉

ミシェル夫人は、トランプ大統領がオバマ前大統領の出生地に関して陰謀論を展開したことだけでなく、それによって家族――とりわけ娘たち――が身の危険にさらされかねなかったことに激怒しているのです。また同時に、多くの人が忘れかけている2011年当時のトランプ大統領の言動について明かし、大統領こそがフェイク・ニュースの発信元であることを国民に今一度思い出させる意図もあるのでしょう。

退任演説の際のオバマ前大統領とミシェル夫人、長女のマリアさん(Photo by gettyimages)

ちなみに本書の発売後、ホワイトハウスの記者団からミシェル夫人のこの記述についてコメントを求められたトランプ大統領は、こう答えました。

「ミシェル・オバマがそんなことを言っているのか。読んでないが、本でも書いたんだろ。大金をもらったんだろうね。それで彼らはいつも『これは問題だ』と言い張るんだよな。

じゃあ私からも『問題』をお返ししよう。軍事予算を適切に割かなかったオバマ大統領を、私は絶対に許さない」