「抗うつ薬」の影響で体中に刺青を入れ、包丁を持ち出した主婦の悔恨

ルポ ブラック精神医療(1)
佐藤 光展 プロフィール

薬をやめて、自分を取り戻した

竹村さんは上原さんに対して、抗うつ薬を少しずつ減らし、最終的に中止する約2ヵ月間の入院治療を行った。SSRIなどの抗うつ薬を突然中止すると、無気力、不眠、悪夢、めまい、感覚異常などの様々な症状が表れる恐れがあるため、時間をかけた段階的な減薬が必要になる。

減薬と並行して、子育てに疲れた原因を探るカウンセリングや、入院患者同士の活発な交流の場などを提供した。すると精神状態が急速に安定し、家族や知人たちが「優しくて世話焼きな性格に戻った」と口をそろえるまでに回復した。

 

上原さんは、もともとあった躁病が抗うつ薬の影響で露骨に表れたケースではなく、抗うつ薬の副作用で心を激しく乱されたケースだった。上原さんは混乱時の心境を「常にイライラして自分が自分じゃなかった。万引きや刺青で、そんな自分を痛めつけたかった」と振り返った。

適切な入院治療と家族の支えで、上原さんは平穏な生活と元の自分を取り戻した。

だが、体のあちこちに入れた刺青を完全に消し去ることはできず、「もっと早く薬の影響を疑っていれば」と悔やんでいる。

竹村さんは語る。

「抗うつ薬は適切に使えばそれほど危険な薬ではありません。しかし、体質によっては気分が著しく高揚する『賦活症候群』という状態に陥り、思わぬ行動に出る場合がある。そのような情報を医師も患者も知っておくことが大切で、万が一の時の素早い対応につながります」

上原さんは、専門性の高い医療機関の受け入れで断薬に成功した。だが数え切れないほど存在する処方薬依存患者の多くは、自分の不調の原因にまだ気づかなかったり、減断薬を引き受けてくれる病院が見つからなかったりして、苦しみ続けている。