「抗うつ薬」の影響で体中に刺青を入れ、包丁を持ち出した主婦の悔恨

ルポ ブラック精神医療(1)
佐藤 光展 プロフィール

万引きを繰り返して…

化粧が急に濃くなり、服装はけばけばしくなった。家族への暴言が始まり、外出すると店の商品を手当たり次第に万引きした。いつの間にか刺青を入れ、ピアスの穴を開けた。

万引きで上原さんを保護した警察は、過去に犯罪歴のない彼女の異様な言動を「精神疾患による混乱」とみて専門的な治療を勧めた。ところが最初に受診した病院では「万引きは性格の問題なので治せない」と言われ、入院治療を受けられなかった。

パキシル40㎎は飲み続けた。上原さん自身も、著しく不安定なのは精神疾患のせいだと思っていたので、一刻も早く治したくて薬を欠かさなかった。

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だが彼女の言動はますます荒れた。自宅で包丁を握り締め、子供もいる前で「私を刺せ!」と叫んだ。

家族に促されて別の病院を受診した。ところがまた「うちでは治せない」と言われ、赤城高原ホスピタルを紹介された。竹村さんは窃盗癖治療のスペシャリストで、2017年末までの10年間に約1600人の常習窃盗患者と向き合ってきた。

「彼女に突然表れた攻撃性や衝動性は、状況からみて抗うつ薬の影響と考えられました。服用をきっかけに著しい攻撃性が表れ、窃盗などの問題行動を繰り返した症例の報告を読んだことがあったからです。実際に診たのはこのケースが最初ですが、以後、複数経験しました。このような症例の報告を知らない医師は今も多いので、彼女のような混乱に陥った人を性格や病気のせいにしてしまう可能性がある」

と竹村さんは語る。

 

抗うつ薬が招く「重大リスク」

重大事件の犯人が抗うつ薬などを服用し、犯行との関連が疑われたケースは少なくない。1999年7月23日に発生した全日空61便ハイジャック事件では、機長を刺殺した当時28歳の犯人は1年以上前から抗うつ薬を処方され、服用していた。

この事件の裁判で、東京地裁は2005年3月、「被告人が、中程度のうつ状態にある中で、服用していた抗うつ剤などの影響により、被告人は、本件犯行当時、躁状態とうつ状態の混ざった混合状態に陥っており、これにより是非善悪の判断及びその判断に従って行動する能力が全く失われてはいないものの、著しく減弱していたと認められ、被告人は、本件犯行当時、心神耗弱状態にあったと認定するのが相当である」などとして抗うつ薬の影響を認め、死刑ではなく無期懲役の判決が確定した。

SSRIなどの抗うつ薬の説明書(添付文書)を見ると「重要な基本的注意」の項目に次のような記載がある。

「不安、焦燥、興奮、パニック発作、不眠、易刺激性、敵意、攻撃性、衝動性、アカシジア/精神運動不穏、軽躁、躁病等が表れることが報告されている。また、因果関係は明らかではないが、これらの症状・行動を来した症例において、基礎疾患の悪化又は自殺念慮、自殺企図、他害行為が報告されている」

だが、このような重大リスクを患者や家族に説明する医師は少なく、抗うつ薬は安易に処方され続けている。