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「抗うつ薬」の影響で体中に刺青を入れ、包丁を持ち出した主婦の悔恨

ルポ ブラック精神医療(1)

脳に作用する向精神薬は、精神疾患に苦しむ患者たちを救ってきた。だが、医師を信じて飲み始めた抗うつ薬や睡眠薬、抗不安薬の副作用で、地獄をみる患者もいる。体質によっては性格や行動が激変し、心身のみならず人生をも激しく揺るがす苛烈な副作用に見舞われる。

日本には今、睡眠薬などの長期使用で処方薬依存に陥った患者があふれ、薬を止められずに苦しんでいる。ところが国は実態調査をせず、救済策を示そうとしない。医師たちの無責任な漫然処方がもたらした数え切れないほどの「医原病」。その典型を紹介する。

 

ジェイソンのような刺青にピアス

「なんだこれは……」

赤城高原ホスピタル(群馬県渋川市)の診察室で、院長の竹村道夫さんは息を呑んだ。

患者は2人の幼子を持つ30代の主婦、上原直美さん(仮名)。上原さんの体には、経験豊富な精神科医も二の句が継げなくなるほどの際立った特徴があった。

左右の上腕、片方の下肢、背中の左上部。そこにホラー映画のジェイソンを思わせるマスクを被った人物の顔など、奇怪な刺青が鮮明に刻まれていたのだ。さらに、体のあちこちにピアスを付けていた。

刺青を入れ、ピアスの穴を10ヵ所以上開けたのは、赤城高原ホスピタルを受診するまでの半年以内の出来事だった。彼女の変化は突然起こった。きっかけは抗うつ薬パキシル(SSRIと呼ばれる抗うつ薬の一種)の増量だった。

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遡ること4年。上原さんは夫との別居や子育て疲れが影響して、うつ状態と不眠に陥った。これは「脳の病気」というよりも、ストレスと過労による体の一時的な「反応」だったのかもしれない。

だが、近所のクリニックの精神科医は生活環境の改善に踏み込むことなく、すぐにパキシルや睡眠薬を処方した。副作用の説明はなかった。以後、症状は一時的に改善したが、治るには至らず、通院を続けるうちに処方量が増えていった。

抗うつ薬で一時的に気分を上げても、上原さんを取り巻く環境や、自身の意識、生活習慣などが変わらなければ根本的な回復にはつながらない。出産を境にした体内のホルモンバランスの変化も、うつ状態に影響したのかもしれない。

だが、投薬一辺倒の精神科治療ではそのような観点が見落とされてしまう。

パキシルの1日あたりの服用量が上限の40mgに達した時から、温厚だった上原さんの暴走は始まった。