相対論と量子論の暗黙の了解を覆した「ペンローズ」とは何者か

名著のプロローグ「鍵」を特別公開!
竹内 薫 プロフィール

偉大なる芸術家の創作意欲を刺激した「ペンローズ三角形」は、ロジャー坊やの非凡な幾何学的才能を予感させるものであった(下図)。

ペンローズ三角形ペンローズ三角形

もっと卑近な例を挙げれば、無断でトイレットペーパーの図柄に使われて裁判沙汰になったペンローズタイルがある。

物理世界には存在しないと思われていた五回対称の準結晶の発見につながったみごとな業績は、今でも幾何学者たちの語り草となっている。ちなみに、裁判では、トイレットペーパーへの使用は不遜として禁止された。

ペンローズ訴えられたトイレットペーパー Photo by Getty Images

もともと自然界の結晶には五角形は存在しないと考えられていたが、準結晶は存在したのである。準結晶というのは、完全に規則正しい結晶と無秩序なガラスの中間。決まった方向に周期的に構造が繰り返すのではないにもかかわらず、対称性をもっている。百聞は一見に如かず、実物をご覧いただきたい(下図)。

ペンローズタイルペンローズタイル

自然界には、数学的に不可能なものは存在しえない。数学的に可能なものがすべて実在するとも限らない。五回対称の準結晶は、ペンローズの数学によって予測され、実際に発見されたのである。

ペンローズのタイルの特許を扱ってパズルなどを作っているペンタプレックス社のデヴィッド・ブラッドレーは、このトイレットペーパー事件について、次のような仰々しくも面白おかしいコメントを発表している。

「大英帝国臣民が、多国籍企業のしり馬に乗って、わが国のナイト爵の発明になる作品を用い、本人の許諾を得ずに、自分たちの尻を拭くことを奨励されたとあらば、最後の手段をとらざるをえまい」

このパズル、ふつうのジグソー・パズルとは一味ちがう。ふつうのパズルでは、局所的にピースがはまればいい。つまり、すぐ隣だけを考えればいい。ところが、ペンローズのパズルは、大局的にピースをはめていかないと完成しない。全体を考慮に入れながらパズルを作っていかないとダメなのだ。

こういうのは、子供の情操教育に非常にいいおもちゃである。

ペンローズは、特殊相対性理論におけるローレンツ収縮が、実際には「縮んで見えない」ことを初めて証明したことでも有名だ。