「俺、3年以内に起業したいんだ。ビジネスのアイデアもいくつかある。だから今は、いろんなネットワークを作りたくて……」
「私はデザイナーとして独立するために頑張ってる。今のデザイン事務所ってすごくレベルが高くて、成長できるから」
そんな会話が聞こえてきそう。広いリビングルームにふかふかのソファ。そこでワイングラスを片手に若い男女が将来の夢を語り、恋バナに花を咲かせる。世界を旅して回る外国人なんかもいて、世界各地の美しい街の話でも盛り上がる。そしてもちろん、入居者同士の恋愛も……。
今どきのシェアハウスと聞いて、そんなテラハなイメージを持つ人は多いかもしれない。リア充の極みである。1階がバーになっているとか、イベントスペースがあって週替わりでお洒落な催しをしているとか……。
確かに普通の1Kよりも高い家賃を払えば、そんなシェアハウスもあるようである。金銭的にも自信的にも、結構、ハードルが高い。
全国に約9万あるといわれるシェアハウス。敷金・礼金なしで、光熱費も無料、wifiも無料。当日申し込みで即入居可能といった手軽さも人気の理由だ。
東京都内のシェアハウス運営会社によると、「10年前は、100人規模の大型シェアハウスが多かったのですが、最近は、一軒家タイプの小規模タイプが多くなりました。最近は、起業家が集まるシェアハウスなど同じ目標を持つ人たちが集まるシェアハウスも増えている」という。なんか、格好いい。
しかし世の中のほとんどのシェアハウスと言われるものは、そんなシャレたものではない。要は、ワンルームを借りる家賃がちょっと厳しい一般人の集団居住住宅である。
言うまでもなくシェアハウスは部屋が狭く、風呂、トイレ、玄関などが共用だ。ツルモク独身寮さながら、こうした安い共同住宅は昔から存在する。正直、普通は住みにくい。
だいたいの物件ではそんなに広いリビングはないし、美男美女が揃っているなんてこともないし、聞こえてくる外国語と言っても英語ではないし、共用スペースで会ってもそんなに会話もしない。そもそも安いところは設備がボロい。
日本人入居者の傾向も変化している。入居による初期投資が低めであるため、以前なら海外志向の強い10代20代の大学生、社会人中心だったのが、近年は、40代以上の社会人、シニアも増えているというのだ。
シェアハウスには、非正規雇用の低所得者やリストラにあってバイト生活をしている人、外国人労働者、離婚者、妙齢おひとりさまなど、いろいろな事情を持った人が居場所を求めて集まってくる。
そんなシェアハウスには実際どんな人が住んでいて、どんなトラブルやどんな人間模様が繰り広げられているのか。東京都内で70人級の大規模シェアハウスから6人の1軒屋シェアハウスまで、6年で8件、シェアハウスを住み歩いてきた著者が、自分の目で見てきたこと、自分の耳で聞いたことを、正直に伝えていきたい。