誰でも必ずモノにできる「理系の英語」学習のために絶対必要なこと

物理学者が「英語」の本を書く理由
志村 史夫 プロフィール

英語に限らず、言語は意思疎通・交流(communication)のための道具であるが、そこには下図に示すように「読(む)・書(く)・聴(く)・話(す)」の4技能(これらを合わせて“語力”とよぶことにする)が含まれる。これらのうち、「読(む)・書(く)」によるcommunicationが“written communication”、「聴(く)・話(す)」によるのが“oral communication”である。また、「読・聴」技能を“受動的(passive)communication”、「書・話」技能を“能動的(active)communication”とよぶことにする。

「語力」は4技能からなる「語力」は4技能からなる

ところで、いま“きく”に対して“聴”という漢字を使ったが、この文字は一般に使われる“聞”とは異なる意味をもっている。その違いを理解することは、われわれが英語を勉強するうえできわめて重要である。

まず、“聞”は、耳を通して音や声が“きこえてくる”という物理的現象を意味しており、“聞く”は英語では“hear(= perceive[sound, etc.]with the ears)”である。

つまり、空気中を伝わる音波が鼓膜を物理的に振動させているのが“hear”である。一方の“聴”は、“聞こうと思って聞き、その意味を理解しようと注意を集中する”という
意味で、英語では“listen(to)(= try to hear, pay attention)”が相当する。

たとえば、大きな部屋で講演するようなときに、最後列の衆に「こえますか?」と訊ねるのは“Can you hear me?”である。これに対して、「私のいうことをいてください」は“Listen to me.”である。

ちなみに、日本語の“補器”に相当する英語は“listening aid”ではなく“hearing aid( = electronic device for helping deaf people to hear)”である。機械は“聞く”のは助けてくれるが、“聴く”のは助けてくれない。そのうち、人工知能(AI:Artificial Intelligence)の発達によって“聴く”のを助けてくれる、正しい意味での“補器”が登場するかもしれないが、現時点で、そのようなありがたい機械は存在しない。助けてくれるのはあくまでも“聞く”ことだけである。

したがって、現在の“補器”は、正しくは“補器”でなければならない。同様に、健康診断で行われる“聴力テスト”は“聞力テスト”とよばれるべきである。もちろ
ん、本来の意味での“聴力”という能力は存在するが、耳鼻科などで機械を使って行う検査は“聞力”を調べるものであって、“聴力”を調べるものではない。

さて、生まれてから現在に至るまで、われわれが母国語(native language)である日本語を習得した過程を思い出せば明らかなように、一般に言語は、聞→聴→話→読→書の順で習得するし、それが自然でもある。

「聞く」ことから人間は進んでいった Photo by Antonis Spiridakis on Unsplash

また、人類のcommunicationの歴史も、oral communicationからwritten
communicationへと進んできた。

役割と機能を考えれば、oral communicationは1次的(直接的)、written communication は2次的(間接的)なcommunicationといえる。したがって、人間が原初的な(primitive)社会生活を送るうえではoral communication、つまり「聴・話」さえできればよく、文字は読めなくても書けなくても支障とはならない。実際に、世界には現在でも約13%の成人非識字者が存在するといわれる。

また、たとえ非識字者でなくても、日常生活において事実上oral communicationのみで生活している人も少なくないであろう(実際、そのような人は私の周囲にもいる)。

したがって、言語能力(技能)の必要度はどんな言語であれ、聴→話→読→書の順になっているし、母国語として習得していく順もそのようになっているのである。

本書が対象とするのは、「論文を英語で書こうとする」理系の読者である。

論文を英語で書こうとするくらいだから、本書の読者には基礎的な(中学・高校で習う程度の)英語力が備わっていることを前提としている。したがって、本書は英語の「入門書」ではない。まず、このことをはっきりさせておきたい。

本書が想定する理系の読者に求められるのは、「理系の英文を正確に読める能力(読力)」と「理系の英文を正確に書ける能力(書力)」であり、本書の目的も、それらの能力をいかに高めるか、ということに絞られる。

「話力・聴力」は「読力・書力」に依存するが、「話力・聴力」を高めるには「読力・書力」を高めるのとは異なる訓練、努力を必要とする。本書では、「話力・聴力」の直接的強化法については触れない。それらに興味がある読者は、拙著『理科系のための英語プレゼンテーションの技術[改訂新版]』『理科系のための英語リスニング』などを読んでいただきたい。