誰でも必ずモノにできる「理系の英語」学習のために絶対必要なこと

物理学者が「英語」の本を書く理由
志村 史夫 プロフィール

 “occasionally”の意味、わかりますか?

大学卒業後、私の本当の研究者らしい研究生活は1974年、日本電気中央研究所に入所したときから始まった。

当初は誘電体などの酸化物結晶の研究についたが、1976年に発足した国家プロジェクト(超LSI技術研究組合)に翌1977年に配属されてから1983年まで、半導体結晶(主
としてシリコン)の研究に従事した。

この間、半導体シリコン結晶などに関する13編の研究論文(前述のようにすべて英語)を書いたが、それらのうちのいくつかが「国際舞台」で評価された。そして、これらの論文のおかげで、1983年に永住のつもりでアメリカに渡ることになるのだが、その伏線は1977年の夏、私にとっては初めての国際会議(結晶成長国際会議)が行われたマサチューセッツ工科大学(MIT)に向かう途中、当時、半導体研究の“殿堂”ともいうべき、憧れのBell研究所(Summit, NewJersey)を訪問したことにあった。

私は、論文を読んで憧れていたJ. R. Patel博士に直々に研究所を案内されたことに加え、玄関にあったGraham Bell の胸像の台座に刻まれた、
  
Leave the beaten track occasionally
and dive into the woods.
You will be certain to find something
that you have never seen before.

という言葉(下図)に感動したのである。

グラハム・ベルGraham Bell 像に刻まれた言葉

これは、本書の読者であれば誰にでも簡単に意味がわかる英文と思われるが、じつは意味深長である。“occasionally”と“will be certain”に注意して全体を読んでいただきたい。

一般に、“occasionally”は「時おり、時々、しばしば」と簡単に訳してしまうことが多いが、この“occasionally”の元の“occasion”の意味をしっかりと考えていただきた
い。“occasion”は単なる「時、機会、出来事」ではなく、“time at which a particular event takes place, right time, chance”を意味している。このような“occasion”は誰にでも、いつでも、ひんぱんに訪れるものではない。

そして、“beaten track”は「踏み固められた道、誰もが通る道」である。つまり、上記の最初の文は、「好機が訪れたら、誰もが通る安全な道から外れて、未踏の森の中に飛び込んでみなさい」という意味なのである。

続く文で、Bellは“will find”とはいってくれていない。“will be certain to find”といっているのである。「未踏の森の中に飛び込んだ」からといって、誰にでも“something that you have never seen before(いままでに決して見たことがない何か)”を“will find”できるほど、世の中、研究の道は甘くはない。未踏の道に飛び込めば、ふつうは路頭に迷うか、野垂れ死にするのがオチである。

Bell がいっているのは、“to find(見つけること)”に“will be certain(疑いをもたないかもしれない)”であって、(“be)certain(疑いをもたない)”ではないのである。

beaten trackから外れて未踏の森の中に飛び込んで行かない限り、“something that you have never seen before”を見つけることができないのは“certain” である。

私は、このBellの言葉こそ、「研究者」というものの本質をついていると思った。そして将来、occasionがあれば、ぜひアメリカというwoods(未踏の地)で研究生活
を送りたい、さらには、いつか自分に研究成果を1冊の本にまとめるようなoccasionが訪れたら、このBellの言葉を掲げたい、と強く思ったのである。