私たちの日々の生活と切っては切れないもの──人それぞれにさまざまあると思います。
しかし、この宇宙に(そう、宇宙に!)存在するすべてのものにとって切っては切れないものとなれば、その候補はかなり絞られてくるでしょう。それに間違いなく含まれる〝鉄板候補〟に、「時間」と「空間」があります。
そこがどこであろうと、今この本をお読みくださっているみなさんの周囲には、縦・横・高さの3次元からなる「空間」があり、一字一句を読み進めてくださる間に確実に、しかも後戻りすることなく(すなわち一方向に)、絶え間なく流れていく「時間」が存在しています。
その両者は今、この文章を書いている私の周囲にも間違いなく存在し、みなさんが日常の多くの時間を過ごす自宅や学校、オフィスにも存在します。いや、そこがどこであろうと、現時点のこの宇宙に、「時間」と「空間」が存在しないところなど、どこにも存在しえないのです。
きわめて興味深いことに、日常の感覚からはどう考えても別物に思えるこの「時間」と「空間」について、決して分けて考えることのできない、つまり「本質的に一体不可分のものである」とする突拍子もないアイデアを思いついた人物が、今からおよそ100年前に登場しました。かの有名な、アルベルト・アインシュタインです。
1915年から1916年にかけて、アインシュタインは「一般相対性理論」とよばれる物理学史上に画期をなす理論を構築しました。この理論の重要な主張の一つは、私たちが存在するこの宇宙において、唯一「絶対的」とよべるものは「光速度」のみであり、その他いっさいの事物はいずれも「相対的」なものにすぎない、というものです。
その帰結として、「時間」も「空間」も決して絶対的な存在ではなく、物質(なかんずくその質量)と相互作用して、ときに縮み、ときに曲がる、あたかもゴムのようにふるまう〝弾性体〟であるという描像が提示されました。
しかもこの両者は、本質的に一体不可分な「時空」として融合され、その物理的性質を根本から捉え直されることとなったのです。
時間と空間が一体不可分であるとはどういうことか。なぜ縮み、どう曲がるのか。さらには、「時空のゆがみ」こそが重力の本質であるとする考え方は、どのように生まれてきたのか──。
「時空のからくり」を解き明かす本書の試みは、アインシュタインが私たちに迫る「宇宙観のコペルニクス的転回」をたどる旅に他なりません。そして、それはすなわち、一般相対性理論のエッセンスを理解する道のりでもあります。
本書では随所で、〝八っつあん〟と〝熊さん〟が物理学をテーマに対話を進めながら「時空のからくり」をひもといていきます。好奇心旺盛な八っつあんの指南役ともいうべき熊さんは、なかなかの〝物理学通〟であるようです。
彼らの掛け合いを楽しみながらぜひ本書を……、おやおや、二人がさっそく、なにやら話しはじめているようです。