新型レクサスLS カー・オブ・ザ・イヤー“予選落ち”の衝撃

迷走するトヨタの高級ブランド戦略
山崎 明 プロフィール

エモーショナルでスポーティなブランドへ

この新型LS不調の要因は何であろうか。その大きな要因と考えられるのがレクサスブランドの方針転換である。

アメリカでのレクサスのブランドスローガンは、1989年の登場時は「Relentless Pursuit of Perfection」(完璧へのあくなき追求)だった。レクサスの精緻で高品質な車づくりを象徴するようなスローガンで、説得力のあるものだった。この「完璧への追求」というスローガンは微修正を受けつつも、2016年まで27年にわたって貫かれたのである。

 

しかしモデル数が増え、このスローガンにふさわしくないモデルも登場するようになると説得力を失っていった。アメリカでは良く出来ているが退屈な車、というイメージも囁かれるようになっていた。

そこで、豊田章男社長自らレクサスブランドのチーフブランディングオフィサーとマスタードライバー(テストドライバーのトップ)に就任し、レクサスはブランドイメージの刷新に取り組み始める。2013年から「Amazing in Motion」(直訳すると「驚きが躍動する」)というブランドキャンペーンを立ち上げ、2017年にブランドスローガンを「Experience Amazing」(驚くべき体験を)へと変更したのである。

精緻なエンジニアリングによる静粛性や乗り心地の良さを売りにするブランドからエモーショナルでスポーティな体験を提供するブランドへと大きく舵を切ったのである。ドライビング好きでレースにも参加する豊田社長の嗜好の影響も大きいと思われる。

広告もそれに合わせて極めてエモーショナルで、ダイナミックな走りを訴求するものとなっている。それを象徴するモデルとして高級スポーツクーペLCを発売した。ただし、それまでのレクサスイメージが邪魔をするのか、LCは玄人筋の評価は高いものの販売はいまひとつである。

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ブランドイメージが邪魔をする!?

ブランドの大変革に取り組んだレクサスであるが、それが功を奏しているようには見えない。ここがブランドの難しいところで、レクサスはすでに30年近い歴史を持っている。ポジティブネガティブ両面で人々の頭の中にはブランドイメージが完成してしまっているのだ。

ブランドイメージはユーザー層とも直結している。レクサスユーザーは、今までのレクサスの車づくりに共感して買っていた人々である。緻密なつくりと高い静粛性、ハイブリッドによるエコ性能などを評価して買っていたのだ。

商売上は今までのユーザーを無視するわけにはいかない。レクサス車は、彼らの期待にも応えなければならないのだ。ここで大きな矛盾が発生する。「緻密で静かでエコ」という今までの実績と「エモーショナルでスポーティ」という目標はあまりにかけ離れすぎていないか。これをすべて満足させる製品づくりなど可能なのだろうか。

新型LSは、今までのイメージを一新すべくスタイリング、走りの味付けはスポーティな方向に振ってきた。運転席のメーターパネルなどはまるでスポーツカーのようである。一方で、後席は飛行機のファーストクラスのようなリクライニング機構やフットレスト、マッサージ機能など装備満載、豪華な空間となっている。

このような欲張りな設計のため、先代LSの8気筒に対して小さな6気筒エンジンを採用したにもかかわらず、車重が先代より200kgあまり重い重量級になってしまった。

スポーティな走り味を楽しむには軽量化が重要で、優れた加減速、コーナリングの俊敏さに直結する。スポーティな走り味の高級セダンを目指すBMW7シリーズは、アルミやカーボンを多用する進歩的な設計によりLSより大幅に軽く仕上がっている。一方LSは、超重量級にもかかわらずスポーティな走りを実現しようとしたため、足回りは固くせざるを得ず、結果として快適性を重視しているメルセデスベンツSクラスに対して乗り心地や静粛性で大きく劣るという事態になってしまった。

このクラスでは乗り心地や静粛性を重視する客が多数派である。だからこそ今までのLSは支持されてきたのだ。結果として、乗り心地や静粛性を重視する顧客を満足させられず、スポーティな走行性能を重視する顧客はこのクラスでは少ないうえに、今までのブランドイメージが邪魔をして選ばれないという結果となっている。