「徴用工判決」問題がこれからの国際政治に与える意外な影響

日本はどう行動すべきか
佐藤 優 プロフィール

理で勝っても、情で負ける日本

邦丸:韓国だけではない、中国だって黙って見ていないだろう、とも言われています。

佐藤:中国にも今までにそういった訴訟を起こした人たちはいるんですが、裁判で事実関係の審理をしないで、すごく遅延させているんです。これは「この問題をこじらせると日中関係が大変になる」という中国政府の認識からですよね。

邦丸:この判決が巻き起こす波紋は日韓関係だけでなく、日米韓、もちろん中国も含めた国際情勢をドラスティックに変えてしまうんじゃないか。

 

佐藤:そうなんです。北朝鮮とアメリカとの関係がよくなると、少しはしょって言うと、韓国に米軍がいる必要がなくなるんですね。地政学という地理と政治を合わせた考え方をすると、韓国は今は「半島」ではなくて「島」なんです。38度線よりは北に行けないから、そこに海峡があるのと同じなので。

それが、韓国と北朝鮮がつながると、朝鮮半島が中国に引き寄せられます。すると「中国・北朝鮮・韓国VS.日本」という図式になる。

今回の徴用工問題は、国際法的な理屈においては日本のほうが正しいんです。ただし徴用工がどういう目に遭ったかについては、具体的にいろんな問題がありますよね。これは従軍慰安婦と同じです。そこのところで韓国側が国際的な宣伝をすると、アメリカはどう反応するか。

先の戦争においては、中国とアメリカは同盟国です。そして朝鮮半島は、アメリカをはじめとする連合国の力で独立したという経緯がある。アメリカの世論が、心情的にどっちになびくかということですよ。「やっぱり日本はナチスと同じだ」というふうに見られるかもしれない。

日本が「国際法に基づいて、一回約束して決めたことをひっくり返すのはやめましょう。この徴用工問題については日本政府には義務がないし、民間企業にも義務はないから、支払いはできません」というふうにやった途端、韓国側は「こんな過酷な状況で強制労働に就かされていたんだ。殴られて死んだ人もいるんだ」と具体的な話をたくさん出してくるでしょう。その中にはいろいろなプロパガンダも含まれているかもしれない。日本のイメージは国際的にものすごく悪くなります。過去の歴史を反省していない国、という印象になってしまいます。

だからこれは、日本にとって極めて難しい問題なんですよ。理屈で勝っても、国際世論全てを敵に回す可能性がある。

邦丸:理で勝っても情で負ける可能性が高い。

佐藤:そういうことです。だから、韓国の原告団はそこのところを上手に突いてくるわけですよ。

邦丸:はあ~~。

佐藤:慰安婦問題について、アメリカでは、日本は決して調子がよくないんです。そこに徴用工問題が加わって、1+1が2になるのではなくて、化学変化を起こして4にも5にもなる。日本は過去を反省していない国である、特に安倍政権は歴史修正主義だ──こういう印象が強まる危険性があるんですよ。