Photo by gettyimages

「徴用工判決」問題がこれからの国際政治に与える意外な影響

日本はどう行動すべきか
※本記事は『佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」』に収録している文化放送「くにまるジャパン極」の放送内容(2018年11月2日)の一部抜粋です。野村邦丸氏は番組パーソナリティです。

国際関係の「根本的ルール」が壊れる

邦丸:韓国のメディアでも保守系、野党系は「今回の判決は正当だ」としていますが、その他の韓国メディアの中には「これでは韓国は国際的に見放されてしまう」という論評を出しているところもある、ということですが。

佐藤:そのとおりです。この問題は、いくつかに整理しないといけません。複雑なことが一個になっちゃって、ぐちゃぐちゃになっている。

まず、「合意は拘束する」という国際法の大原則があるんです。

邦丸:合意は拘束する。

佐藤:約束したことは守らなければいけない。ですから、いったん国と国で約束したことは政府が替わっても、時代が変わっても、その約束は双方で「約束を変えましょう」という合意をすることによってしか変えられない。そうじゃないと、国際関係が大混乱しちゃいます。

邦丸:ですよね。

 

佐藤:1965年に日韓基本条約というのができて──この中には請求権については何も書いていません──、それに関連してたくさんの文書ができた。それらの文書の解釈で、日本と韓国で一致している点もあれば一致していない点もある。たとえば竹島に関しては、「領土問題は一切存在しない」というのが韓国の立場だし、日本は「領土問題は存在するし、紛争があったときの手続きも決まっている」と、平行線なんですよね。

ただし徴用工の問題に関しては、「この賠償は解決済み」と書いてある、ということで韓国も日本も一致しているんです。これまで、ずっとそうだった。ところが今回は「日本の植民地支配が不法なので、請求権は消えていない。だから個人が日本政府、あるいは日本の企業に対して賠償を要求することはできる」という判断になっちゃったんですね。

これは1965年の約束に対する違反ですから、「日韓関係が根本から壊れる」ということで、日本政府としては厳しく反応せざるを得ないんです。もしこういったことができると、きちんと国同士の約束が守られるかどうかわからなくなる。だから日本国家の大原則、国際法秩序の大原則にかかわるから、日本としては厳しく出ざるを得ないんです。

邦丸:ふむ。

佐藤:次の問題は、国家と民間の関係です。

たとえ話で説明すると、ここにスマホがあって、その無料修理期間が2018年10月31日までだとする。これが11月1日に故障してしまった場合、お店によっては無料で直してくれる場合もあるかもしれない。「いや、1日とはいえ期限を過ぎているから、有償になります」というところもあれば、「わかりました。本来はウチがやる義務はないんですが、長いお付き合いですから」と、特に街の家電屋さんなんかは臨機応変に対応してくれるところがありますよね。

韓国に対する賠償に関しても、今まではそういうことが可能だったわけです。

どういうことかというと、徴用工を雇っていた個々の企業が自己判断で、「請求権を逸しているから本来義務はないけれど、過去にウチの会社がやっていたことは、いくら植民地時代で当時は合法だったとはいえ無茶だった。被害者の思いや会社のイメージも考慮して、ここは和解しましょう」ということが可能だったわけです。

邦丸:実際、過去に日本企業はそれをやったわけですね。

佐藤:「当社としては義務はないけれど、人道的観点から考えて誠意を示すためにやります」という解決方法があったわけですよ。それがもう、逆にできなくなっちゃう。

どうしてかというと、「日本には補償する義務があるから応じなさい」と言われても、そういう義務はないから。だから日本政府は今まで、「各企業の判断で和解に応じるなら、それはそれでいいですよ」という形、現実的に「元徴用工の人たちから要求があれば解決する」という途をずっと残していたんですよ。

ところがこうなってしまうと、そうやって民間で和解してしまうと困るので、政府は関係の各民間企業に対して「和解に応じないように」と言っている。なぜならそこで応じると、今度は「日本側が義務に応じた」ということになっちゃうから。日本国家の基本的なルールがおかしくなってしまうわけです。

さらに厄介なのは、そういうことで訴えられている会社が韓国に資産を持っている場合、韓国がそれを接収することが可能になりますから、あまり資産を置かないようにする。だから、日韓のビジネスがすごく冷え込んでくるんですね。

しかも、それだけでは済まないんですよ。第三国に置いてある財産も取ることができる。具体的にはアメリカです。そうすると、アメリカの弁護士を使って請求することも可能になる。アメリカでのビジネスは常に韓国リスクを抱えてやらないといけなくなるので、これは日本経済にものすごく大きな影響を与える。そういう事態になっちゃったんですよね。